第11話 原価と利益
話の途中で、ウエイトレスが注文した食事を持ってきた。カノが頼んだのは、ハンバーグランチセット。ハルは、唐揚げ定食。パパは、とんかつ定食だった
「値段の決まり方は、大きく二つある。ひとつは『原価と利益から値段を決める』なんだ」
パパは、そう言いつつ、付け合せのキャベツにドレッシングをかける。
「げんか? りえき? なんだろう、それ」
カノは、首を傾げている。両手は、フォークとナイフでふさがっている。
「利益はものを売った、つまり買ってもらった時の儲けのことだと思う。でも、原価というのはわかんないなぁ」
ハルは、自分なりに知っていることを述べた。そして、唐揚げをひとつ箸でつまむ。
「よし、じゃあひとつずつ理解していこうね。まず、簡単な公式。値段=原価+利益。ものの値段は、原価と利益を足したものなんだ。原価は、そのものやサービスを作るためにかかったお金のことをいう。利益は値段から原価を差し引いたもの(利益=値段−原価)、つまり儲けだね。一回でたくさん利益が欲しければ、原価を下げて、値段を高くして売れば良い。利益はたくさんになるだろ?」
パパは、仕組みを説明する。
「うん。たくさんお金を手に入れるために、なるべく安く作って、なるべく高く売るってことかぁ」
ハルはうなずいて、理解を示した。
「でも、利益をたくさんにすると、値段のわりに買ったものがショボショボになりそうよ。こんなものにこんなにお金払うのって、わたしならなりそうだよー」
「カノちゃん、良い点に気づいたね。この、値段=原価+利益の公式は、売る側の都合なんだ。作るのにこれだけお金がかかりました。だから、それを原価にしましょう。儲けである利益も当然欲しいから、その原価に利益をのせて値段を決めましょうということだ」
「例えば……百円のお菓子が売っていたとして、八十円は原価で、残りの二十円が利益になるってことか」
ハルが例を挙げてみる。
「そうだよ。作るのに八十円かかったお菓子を、そのまま八十円で売ってしまっては、自分の持っているお金は増えないだろう? お金を増やしたいから、原価に利益をのせて値段とするんだ」
「じゃ、ものの値段って、作るのよりも高いのね。自分で作った方が安上がりなのかな」
カノは、考え込んだ。切ったハンバーグに刺したフォークが止まる。
「そうなるものもあるけど、商売として売ろうとしている場合は、この原価を安くする工夫をみんなしているんだ。専用の機械を作って大量に作ったり、人が集まって作業を分担して効率よくやったりね。面倒な計算とかの処理をコンピュータに任せてしまうこともあるね。学校の給食なんて分かりやすいだろう。給食センターか給食室で一度にたくさん料理を作る。それを給食当番の生徒がみんな分担して、お皿に盛り付けるでしょ。少ない時間で、学校の生徒みんなにお昼ご飯が届くんだよ」
「言われてみると、給食はすごく効率良いやり方しているんだね」
ハルは、納得したように言った。
「一度に大量に作ると、効率的なことが多いので、ものを作るためのお金も安くできるんだ。逆に、原価が高くて、値段も高いものもある。その人のためだけに特別に作る場合、つまりオーダーメイド。この場合は、その人の要望に応えるように作ってあげるので、同じものを何個も作ることがない。だから、原価が高くなりがち。サラリーマンが着ているスーツなんかも、オーダーメイドで作る人もいるんだよ。自分の体型合わせたり、好みの生地を組み合わせたりしてね」
「パパも?」
カノが問いかける。
「いや、パパは普通に売っているのを着ているよ。オーダーメイドのスーツよりも、他のことにお金を使いたいからね。本とかゲームとか……」
「ところで、ものを作るのに原価、つまりお金がかかるのはわかるのだけど、その中身はどんなものがあるの? ものを作るための材料のお金だけ?」
ハルは、さらに知りたいようで質問を投げかけた。
「材料費以外にもあるよ。例えば、作るために動く機械の設備費。人が作る場合はその人が仕事をするわけだから、お給料となる人件費。作ったものをしまっておく場所にもお金がかかるね、倉庫代と呼ぶのかな。それから、作ったものをお店に届けるための運送費。あとは面白いところで、広告やCMといた宣伝費も入るね」
「テレビのCMとか雑誌の広告とかポスター代も入っているの? どうして?」
カノも質問をする。
「作ったもの、つまり商品を買ってもらうのには、みんなに知ってもらう必要があるでしょ。知ってもらって、欲しいと思ってもらわないと、お金を払ってもらえないからね」
「なるほどね。ぼくらの手元に作ったものが届くまで、いろいろなお金がかかっているのは、とても面白いなぁ」
「では、二人に、質問。値段の中に、『利益』が含まれていることをどう思いますか?」
パパはそう投げかけた後、とんかつを一口頬張った。
「えっ? 利益って、上乗せされているお金のことだよね。うーん……。ちょっと、ずるいかなぁと思うかも。だって、作るのにかかったお金以上に、お金を払わないといけないでしょ。もったいないというか、もうちょっと安くしてよって思うなー」
カノは、素直に述べた。
「ぼくもその気持ちは確かにあるよ。でも、自分がやる代わりにさ、ものを作って売ってくれるのだから、売る人が得しないとダメだとも思う。お金が増えないなら、誰も作って売ろうとしなくなる。そしたら、いろいろ不便になりそうだ」
「パパは、利益の分もお金を払うことを、『感謝』の分を上乗せして払っていると思っているんだ。カノちゃんが言うとおり、お金は大切だからなるべく安く買いたいという気持ちは常にある。でも、ハルくんが考えたとおり、自分の代わりに誰かが作ってくれて、運んできて売ってくれたということに、応えることも大切だ。だから、『利益』=『感謝の気持ち』と思って、お金を払うんだ」
「わたし、お金を払う時に、そこまで考えたことなかったなぁ……」
「物々交換の野菜と魚の話だよね。自分は野菜が作れない。だから、代わりに作ってくれた人に感謝もこめて、魚と交換するんだよね」
ハルが、習ったことを思い出すように言った。
「そうさ。さらに、お金というツールを使うと、数字で表現できる。感謝の気持ちも数字で表現できるわけだ。もっとも、買う時には原価がいくらで利益がいくらかは知ることはできないけどね。でも、その中に利益が含まれている。その部分には感謝をこめてお金を払おう。その方が気持ちよく買い物できるだろう? 良い買い物というのは、『こんなに良いものをこの値段で提供してくれて、ありがとう』と思えるものだと思う」
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