第6話 どうしてお金を失いたくないのか?
「じゃ、『お金を失いたくない』ってのは……お金がなくなると生きていくのが大変になるから?」
ハルが、やわらかい日差しの中、歩きながら問いかける。
「うん、そうだね。お金があれば、簡単に買い物ができて、必要なものがすぐに手に入るよね。逆に無いと買い物ができなくて大変なんだよ」
パパが、横で歩きながら答えた。
「お金がないと生きていくのが大変だというのは……わたしにはよくわからないなぁ。お金を使うのって、自分の欲しいもの買う時に悩むくらいだもん。」
カノは、二人より少し前を歩きながら、振り向いて言った。
「まぁ、カノちゃんくらいだと、おこづかいの使い道くらいだろう。でもね、例えば、お財布を持たずに、つまりお金をまったく持たずに外に出て、欲しいものを手に入れてくることはできるかな? 欲しいものは、ジュースとかお菓子でいいから、ちょっと考えてみよう」
「えーっ、どうだろう……」
カノは、右手の人差し指を口元に当てて考えている。
「それ、ムリに決まっているよ。自動販売機はお金を入れないと買えないし、コンビニもレジでお金を払わないとダメだ」
ハルが、代わり回答した。
「そうだね。お金を払わずに、勝手に商品を持ち出したら、それは万引き。つまり盗み。
「あ、だから、お金がないと生きていくのが大変になるのね」
カノは、納得したような顔になった。
「持っているお金が少ないと、買えるものが少なくなる。言いかえると、できることが少なくなるからなんだ。だから、お金を失いたくないって気持ちになる」
「でもさ、お金は使わないと……他のものは手に入らないよね。買い物できないよ。失いたくないけど、使わないと生きていけないのかぁ。なんだか難しい話」
ハルは、悩ましい顔で言う。歩いている三人のところに雲の影が落ちた。涼しくなる。
「働いて、お金を手に入れて、必要なものは買う。けれど、お金も貯めて、何かあった時に備える。そう考えて働いている大人が多いと思うよ。もちろん、パパもだ」
「お金は保存ができるから、何かのために貯めておくんだね」
「そうだよ。いろいろなものに交換できて、保存がきくお金は……やっぱり便利なんだ」
パパの言葉に、二人もうなずく。
「貯まっていたお金が減っちゃうと……余裕がなくなって不安になってしまうのね」
「もうひとつ、お金を失いたくないという気持ちにさせるものがあるんだ。それは、日々や月々で使うお金の量、つまり金額がわかっていたとする。そして、貯金や銀行の残高を見ると……あとどれくらい持っているお金で生きていけるかわかってしまう。お金は数字で確認することができるから、見通しが立ってしまうんだ」
「それは、なんだかこわいなー。でも、ちゃんと働いてお金を稼いでいれば問題ないと思います、パパ」
「……でもさ、働いている人が、病気やケガをしたらどうなるのだろう。お金が手に入らなくなってしまうよ。会社がつぶれて、働いている職場がなくなってしまうこともありそう」
ハルは、心配そうな顔で述べた。
「お兄ちゃんは、心配性だねー。パパもママも元気だし、お仕事だって忙しい、忙しいって言っているから、うちは大丈夫だって」
カノは、気楽に考えているようだった。
「でも、五年後はどうだろう? なんか考えだすと、不安になってくるよ」
ハルは、心配そうな顔のままだった。
「大丈夫。パパもママもがんばるよ。ところで、お金をあまり持っていなくても、不安にならない人もいる。ハルくんのように、慎重で不安になる人もいるね。こればかりは性格によるところかもしれない。でも、みんな理解していることは、今と同じ生活をしていくには、お金がずっと必要。だから……『お金を失いたくない』って気持ちに、少なからずなるんだ」
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