第2章 お金と気持ち

第5話 どうしてお金が欲しいのか?

 天気の良いある休日、ハルとカノ、そしてパパの三人は、家事に忙しいママの邪魔にならないよう、散歩にでかけた。お手伝いから逃れるように、家を出たともいえるかもしれない。


 川べりの土手。桜並木は、すこしずつ咲きはじめ、春のあたたかさをその色で示しているようだった。風もおだやかで、明るい陽射し、まさに散歩日和。ママの家事がひと段落するまでは、まだ時間があった。


「ね、パパ。お金のこと、また教えてよ。こないだの話、とても面白かったわ」


「ぼくも。それに、お金のことでまた気になることがあるんだよ」


「ん、気になること? ……それは何だい?」


 パパが、問いかけた。


「んとね、誰もが『どうしてお金が欲しいと思うのか』とか、『どうしてお金を失いたくないと思うのか』とか……」


 ハルは、歩きながら答える。心地よい風が吹いてきた。


「あ、それならわたしも、『どうしてお金を使ってしまうのか』が気になる。いつの間にかお財布からお金が消えちゃうんだよー。困っているんだよー」


「なるほど。わかった。じゃ、今日はそのテーマでお金のことを勉強してみよう。ハルくん、カノちゃん、お金は欲しいですか?」


「そりゃ、もちろん」


 ハルは大きくうなずく。


「なるべく……たくさん欲しいよ!」


 カノは目を輝かせて言った。


「じゃ、例えば、お金がたくさんあると、どんな気持ちになるだろう。想像してみよう」

 


「ぼくがお金持ちになったと想像すればいいのかな。だとしたら、欲しいものが何でも買えるから……」


「あ、使うことは考えない。お金をたくさん持っているだけの気持ちは?」


 パパがさえぎった。


「えー、使っちゃいけないの?」


 カノは口を膨らませる。


「いやいや、お金がたくさん欲しいなら……もし、たくさん持っていたら、どんな気分だろうかってことさ。持っているお金にゼロを四つくらい付けたら、どんな気分だい?」


「五百円が、えっと、五百万円になるってこと? そんなにお金があったら、うれしすぎるよ!」


 カノはさらに目を輝かせる。


「確かにうれしいね……。ぼくは、なんだか安心する気持ちになるかなぁ」


「そうかもねー。お金はいろいろなものに交換することができるから……」


「お金がたくさんあれば、いろいろなものが手に入る。そう思うと、安心できそうだね」


 パパは、二人の意見に同意する。


「何かあっても、お金があれば、なんとかなるって感じ」


 カノは、うんうんとうなずく。


「そうだね。『お金がもし今よりもっとあれば、もっと安心できるのに』と考える人は多いだろう。パパもそうだ」


「パパも? いっぱい働いて、お金をもらっているのに?」


 カノは、首を傾げた。


「そうだよ。もっと欲しいさ」


「たくさんお金を持っていたとしても、もっと欲しいと思ってしまうのかも。もっと安心したいからかなぁ……」


 考えながらハルは、述べる。


「安心だけじゃない。さっきたくさん使うところを想像しようとしたね。お金があれば、欲しくてもガマンしていたものも買える。ありとあらゆるものを手に入れることができると考えちゃうよね?」


 パパは、二人に同意を求めた。


「うん! たくさんある欲しいものを……かたっぱしから買ってみたいなぁ」


「あ、そう考えると、ガマンしなくて良いということも、お金がたくさん欲しい理由かも」


 ハルは、何かに気づいたように言った。


「そうだね。お金がたくさんあれば、自由が手に入るような気がするわけだ。少なくとも今よりは、いろいろなものが買えて楽しいはずだとね」


 そう言って、歩きながらパパは両手を広げた。


「わかるなー。欲しいものがあって、お金を貯めてやっと買うなんて、そんなガマンしたくないもん」


「貯金は大事だよ、カノちゃん」


 ハルが諭す。


「お金がたくさんあれば、貴重なものや金額が高いものも買えるね。手が届かなかったものも、手に入る。本当に欲しいかは別としても……買えるわけだ。人がお金を欲しがる理由は、より多くのものが欲しいからかもね」


「ぼくは、本当に欲しいものか見極められたらいいな。ムダ使いしたくないし」


「お兄ちゃん、たーくさんお金があったとしても?」


「そうさ。お金は物々交換をするツールなんだよ。使うほど、手元からなくなるのがお金じゃん。お金を使うということは何かと交換することだから、本当に欲しいものと交換できたら、うれしい。けど、そうでないものもムリに手に入れる必要ないよ」


「ハルくん、それはなかなか立派な考え方だ。でも、本当に欲しいものってどうやったらわかるだろうね。これは結構、難しい問題だと、パパは思う」


「そうだよ、お兄ちゃん。買って使ってみないと、本当に欲しかったかわかんないと、わたしは思うなー」


「おっと、カノちゃんもなかなかするどい。買う前に、買った時の自分の姿を想像することはあるだろうし、買った後にそのとおりになると、うれしいものだね。そうならないと、お金をムダ使いしちゃったと残念な気分になる」


「そうだよー。そうだよー」


「ってことはさ、お金を上手に使うって……実は難しいのかも」


 ハルは、考え込む。


「すこし話を戻そうか。前に話したとおり、生きていくためには衣食住が必要で、それを手に入れるには、現代の社会ではお金が必要なんだね。だから、生きていくのが楽になるためには、お金をたくさん持っていると近道だ。みんな、楽になりたいから、お金が欲しいんだね。生きていくこととお金は、実は直接関係があることなんだ」

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