第3話 長期間保存ができる、持ち運べる

「次に説明するのは、お金は『長期間保存ができる』だ」


 パパが言った。そして、ジュースが入ったコップを手に取る。一口飲んだ。


「さっきの物々交換のお話でも、お金はくさらないって出てきたわ」


「いつでも他のものに交換できるためには、くさってなくなってしまっては困るってこと……?」


 ハルが、確認するように尋ねた。


「そのとおり。お金は、物々交換をしやすくするツールで、いろいろな人の手に渡っていくよね。そのやりとりをくり返すうちに、くさったりこわれたりして、使えなくなったら大変だ。あとで他のものと交換することができなくなってしまう。だから、お金として扱われるものは、丈夫であることが大事だね。十円玉、百円玉は金属でできていて、頑丈でしょ」


「うん。金属なら、食べ物よりもずっと長持ちするね」


 そう言いながら、ハルはポテトチップを口に入れた。


「ん? ねぇ、パパ、でも千円札って紙だよー。ハサミで切れちゃうよ!」


 カノは、手をチョキの形にして、ハサミで切る真似する。


「おっと、するどいね。紙のお金、つまりどうして紙幣があると思う?」


「紙……は、ハサミで切れちゃうけど……それでも身の回りにあるもので丈夫な方だから?」


 ハルは、自分で言いながらも首を傾げた。


「えー、紙より丈夫なのあるよー。プラスチックなら、ハサミで切れないし、身の回りにいっぱいある」


「あ、そうかぁ。紙でないといけない理由があるんだよね、きっと」


「うーん……。パパ、ヒントください!」


 カノは、パパを見てお願いする。


「ヒントかい? それじゃ……十円玉、十枚でいくら? 百円玉、一枚でいくら?」


「それがヒントなの? どっちも百円だよ。変わらないわ」


 カノは、自信満々に答えた。


「じゃ、どっちがお財布に入っているとうれしい?」


「お財布に……? それなら百円玉。十円玉が十枚は、ジャラジャラしてイヤよ。買い物する時に出すのも大変」


「あっ! そうか、そうか。紙幣は、お金を扱いやすくするためにあるんだ。同じ一万円でも、百円玉が百枚と一万円札が一枚なら……」


「そうだね、お兄ちゃん。一万円札の方が軽い! うすい!」


「だから、簡単に持ち運べる」


 ハルは、カノに向かってうなずいて言った。


「二人とも良く気づいたね。ヒントが簡単だったかな。お金は価値を測るツールだけど、物々交換をお金でやる場合、軽くて持ち運べないと困るわけだ。紙のお金だったら、財布に入れてもあまりかさばらないね」


「プラスチックは、たしかに丈夫だけれど、ちょっとかさばるね。ポイントカードとか何枚もお財布に入らないし」


「金額が大きいほど、お札にした方が良いんだねー。やっぱりみんな、ジャラジャラはイヤなのね」


 カノは、自分の言ったことにうなずく。


「でもさ、パパ。逆に考えると、どうして十円玉や五円玉も紙幣にしないの? 全部、紙幣にしたって良い気がするよ」


 ハルは、尋ねた。


「それはね、お金を作るのにも、お金がかかるからだよ。例えば、十円札を作るのに、二十円かかったら、どうなるだろう?」


「二十円かけて、十円の価値を作るの? お金が減っちゃうよ」


「あ、そうかぁ。そんなバカなことはしないってことかぁ」


 ハルは、納得したようだ。


「お金を作る、つまり発行しているのは、日本銀行。銀行のための銀行というのがある」


「みんなで物々交換をしやすくするお金も、誰かが作らないといけないのね」


「お金の機能は、『長期間保存ができる』こと。それに、『持ち運べる』ってことがわかったかな?」


 パパは、二人に確認する。二人はうなずいて、それぞれ言った。


「いつでも他のものと交換できるための、『長期間保存ができる』機能なのね」


「『持ち運べる』のも大事。価値を測って、ものと交換するためってことだ」


「パパが考えるお金の機能はこれくらいかな。お金の目的は、『物々交換を効率よくするツール』だね。だから……

 一 価値を測る機能

 二 長期間保存ができる機能

 三 持ち運びしやすい機能

があるんだ。わかったね」

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