第2話 価値を測るツール

「お金のもうひとつの機能は、『価値を測れる』ってこと」


 パパは、人差し指を立てて言った。


「価値を測る? 定規やメジャーみたいに?」


 カノは、首を傾げて尋ねる。


「あ、お金は金額、つまり数字で表されるから……」


 ハルは、納得したようにつぶやいた。


「そう。物差しで長さを測ったら、センチメートルで表現するよね。重さはグラムやキログラム。お金の値は、『価値の大きさ』を表現したものなんだよ。日本でのお金の単位は?」


「はい! 円です」


 カノが元気に答えた。


「じゃ、アメリカは?」


「えっと……ドル」


 今度はハルが答える。


「正解。国によって、お金の単位は異なるけど、『価値の大きさ』を表現するということでは同じ。もちろん、さっきの物々交換のための道具であることも同じだ」


「どの国でもあるってことは、さっきパパが言っていたとおり、お金は大発明で、世界中に広まっているってことなのね」


「まぁ、いろいろな機能を持っていて、社会に欠かせないものになっているから、お金は素晴らしい発明だとパパは思っている。他の大人は違う意見かもしれないけれどね」


「もっと、お金のことを知らないと、ぼくは何とも言えないなぁ。それに……そもそも、『価値』って何だろう?」


「うん。わたしも知りたいよ」


「それじゃ、『価値』について、すこし考えてみようか。例えば、ハルくんが六千円でゲームソフトを買いました。もちろん、発売日に新品で」


「お兄ちゃん、ゲーム好きだもんね」


 そう言いながら、カノはチョコをつまむと口の中にいれた。


「で、このゲームを三ヶ月くらいで遊びあきて、中古ソフト屋さんに売ろうと思いました。中古ソフト屋さんの買い取り価格は三千円でした。これはどういうことでしょう?」


 パパは、ハルに答えるように促す。


「……うーんっと。あ、ぼくが遊んだから新品ではなくなった。だから、安くなった」


「それに発売日から時間も経っているからよ」


 カノも答えた。


「そう。未開封、つまり新品のままでないから、価値が下がったとみられたわけだね。誰かが使ったのであれば、傷がついている可能性もあるからね」


「お金があるなら、確かに前に誰かが使ったものよりも、新品の方が欲しいかも」


 ハルは、素直に言った。


「カノちゃんが言った、時間が経っているからも正解なんだ。ふつうは時間が経つと、それに代わる新しいものが世の中に出てくる。そうすると、古いからという理由で、安くしないと買ってくれないし、売れないんだ。みんな、新しいものの方が機能やデザインが良いかも、面白いかもと思うからね」


「新しいゲームが出たら、古いゲームは見向きもされなくなっちゃうもんね。悲しいけど……」


 カノは、ちょっと肩を落とす。


「『価値』というのは、もっと複雑なのだけど、すこしずつ勉強していこうか。もうひとつだけ。価値があるかないかは、『貴重か、そうでないか』で決まる」


「貴重なものは、価値が高いってこと?」


 ハルが、ポテトチップをつまんだまま、確認のために尋ねた。


「なんだか、当たり前な気がするよ、パパ」


「それじゃ、貴重ってどういうことだろう?」


 パパは二人に問いかける。


「むっ、それを言われると……」


「えっと、数が少ないことかなぁ。手に入りづらいもの……?」


 ハルは、まだポテトチップを口に入れずに、考えながら言った。


「そうだね。簡単に手に入らないもの、数が少ないものは、価値が高くなる。お金は物々交換のツールだ。だから、手に入りづらいものに対しては、お金の量、つまり金額が大きくないとつりあわない。貴重なものを持っている人は、お金に換えるならたくさん欲しいと思うわけだね」


「そうだよねー。貴重なものだと知っていたら、手放したくないもん。でも……たくさんのお金と交換できるなら、考えちゃう」


 カノは、真剣な顔で腕を組んだ。


「どうしてそう思うんだい?」


「そりゃー、お金がたくさんあれば、いろいろなものを買えるから」


 カノは、両手を広げる。


「あ、そっか。野菜一個と魚一匹を交換するのは、良いように思えるけど、そうでもないんだ。お金が価値を測るツールって意味、やっとわかった」


 ハルは、何度もうなずいている。


「お兄ちゃん、どういうこと?」


「獲ってきた魚は、いろいろな種類や大きさがあったとしてね。マグロみたいな大きな魚を、キャベツ一個と交換するかな?」


「あ、しないしない。もっと野菜の数を増やして、つりあわないと交換してもらえないと思う」


「良いところに、気づいたね」


 パパは、笑顔になった。


「うん。お金は物々交換をやりやすくするためにある。そこに数が示されていると価値の量が測れるってことなんだね」


 ハルは、納得したように言う。


「うむむ?」


 カノは首を傾げて腕を再び組んだ。


「お金を使う人たちの間で、価値の基準を決めておく。その基準にしたがって、いろいろなものの価値を測るんだ。例えば、キャベツ一個二百円と決めたら、ニンジンは一本八十円といった具合にね」


 パパが、説明した。


「物々交換をする人たちの間で、価値の測り方を決めておいたのが、金額とか価格なんだね」


 ハルが、確認するように言う。


「あ、だから、国が違うとお金の単位が違うんだ。日本の中は、みんなで円を使いましょうと決めているのね」


「そう。生きていくための分業をやりやすくするために、物々交換を効率良くするために、生まれたのがお金。だから、人と人とをつなぐものでもあるんだ。価値はそのお金を使う人たちで決めた物差しだよ。その人たちの中で、あるものの価格はどうやって決まるかは……気になるだろうけど、それはまた別の機会に話そう」


「お金の機能の話が、まだ残っているから?」


 ハルが尋ねた。そして、ポテトチップをやっと口に入れた。


「そうだよ。まずはお金の基本を知ろうね」


「うん!」


「もっと知りたくなってきたよ」

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