ガチ恋にハマった私②




「ただいまー」


一人暮らしのためその言葉に返事はない。 それでも帰宅の度に欠かさず言うのは習慣になっているため。 しわにならないようコートをかけて、手を洗いうがいをする。

シンジの家へと出向き帰ってきた今、時刻を確認すると一時間程経っていた。


「6時前かぁ・・・。 シンジくんの家まで往復して眠気がなくなっちゃったな。 少しでも今のうちに稼いでおこう」


カップにインスタントココアの粉末を開けてポットにお湯を沸かすとパソコンを起動する。 その間にタブレットでランキングを確認した。 遥香の主な稼ぎはインターネットでの配信業だ。


―――最初は楽しくてやり始めただけなのになぁ。

―――ホストにハマってからお金を稼ぐ手段としか考えられなくなっちゃった・・・。


そうなると本心から楽しめなく仕事の体になる。


―――でもまぁこれもシンジくんのためだと思えば!


タブレットに表示されたランキングは視聴者の投げ銭の量。 一人一人配信中にお金をくれた量がカウントして記載されている。 これは遥香の視聴者ファンが善意で無償で行ってくれていた。


―――これはホストに通っていて思い付いたんだよねぇ。


他の人はやっていないであろうランキングシステム。 投げ銭が毎月上位の人には何らかのお返しをするというものだった。


―――うーん、今月Trueさんは上位に来なさそう・・・。

―――今月で見に来てくれたのはほんの数回だし投げ銭してくれる量もかなり減っちゃった。

―――流石に催促はできないし・・・。


遥香にとっての一番客はTrueという名前の人だ。 以前は毎日のように配信に来てくれ高額の投げ銭をしてくれていた。 だが最近はそれがめっきり見当たらない。


―――Trueさんのおかげで私は生活が成り立っていたしホストでもたくさんお金を使えた。

―――Trueさんが来なくなるだけでこんなにも生活に余裕がなくなるなんて・・・。


今でも広告収入やその他で生活自体は何とかなっているが、肝心のホスト通いはそれ以上のお金が必要となる。 パソコンがつき配信画面を映す。

遥香が配信で行っているのは主に雑談で視聴者からリクエストをもらいそれについて議論するという形だった。 現実の容姿を映すことはなくモーションキャプチャーで動くアニメ絵を使用したVtuberである。


―――前は歌やゲームを配信でやっていたんだけどね。

―――それを中断する程リスナーさんとお話するのが楽しいんだ。


「みんな、おはよー!」


早朝であるにもかかわらず少しずつ視聴者の数が増えていった。


“おっはー。 パルルちゃん今日も早いねぇ”


「朝早いのに来てくれてありがとー!」


“どんなに疲れていてもどんなに眠くても通知が来たらすぐに飛んでくるさ”


5分程挨拶を交わしているとある程度の視聴者を集めることができた。 そこで本題へ入る。


「えーと、今日はガチ恋営業についてどう思っているのか、ねぇ・・・。 って、もしかしてこれ私に対して!? そんなわけないか。 みんな平等に私にとっては大切な・・・。 って、嘘をつきました!

 お金を投げてくれる人、大歓迎! まぁぶっちゃけ、みんなを大切に思っているのは本当なんだけど」


話題で一通り喋るとお金が投げられた。 それに加えアーカイブの動画に広告が付き大体月に平均して50万くらいは稼げている。


―――うーん、やっぱりこれだけじゃ厳しい・・・。

―――明らかにスパチャの量が減っている。

―――今日のデートのことも考えるともうお財布の底が尽きちゃうよ・・・!


「今日もあの人はいないの?」


うっかり出てしまった心の声。 『あの人』とぼかした言い方だったが常連の視聴者には伝わったようだ。


“Trueさんのこと? 最近見ないねー”

“石油王もスパチャのし過ぎでカップ麺啜ってんじゃない?”

“代わりに俺が今月一位を取っちゃってパルルちゃんの私物をもらっちゃおうかな? はい、3000円”

“ナイスパ、ナイスパ! 自分は今月厳しいんでTrueさんが来なかったら来月トライします”

“Trueさん、金がなくても配信だけでも来ればいいのに”

“それはプライドが許さないんじゃない?”

“投げ銭で貧乏すっからかーん”

“はは、よくある酷い末路だ”


その言葉が今の遥香に突き刺さった。


「お金感謝でーす! だけど視聴者同士でそういうこと言わなーい!」


“はーい。 でもTrueさん、投げ銭も凄いしいい議題も投げてくれるから来ないのは寂しいわな”


「・・・まぁ単に忙しいだけかもしれないし。 私はいつでも待ってるから気軽に遊びに来てくれたら嬉しいな。 もちろん、お金を投げてくれたら優遇します!」


“パルルって、本当にお金好きだよね。 あからさま過ぎて逆に好感持てるわ”


今回も少額の投げ銭をしてくれる人は多くいた。 だが残念ながら赤文字で表示される高額投げ銭の表示はない。


―――うーん、二時間配信して一万円か・・・。

―――Trueさんが常に来てくれた時と比べると大分少ない。


そこから手数料や税金を計算すると遥香の手元に入るのは5000円程度となる。 視聴が増えれば広告料が付くが、遥香はそれらより投げ銭されやすい配信方法を選んでいた。


―――やっぱりみんなが来やすい夜に配信するのが一番いいんだけどね。

―――でも今は長期休みだし夜はホストクラブへ行きたいからなぁ・・・。


そう思いながら朝の配信を終えた。



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