ガチ恋にハマった私

ゆーり。

ガチ恋にハマった私①




「ふぅー、気持ちよかったー!」


風呂から上がった遥香(ハルカ)はタオルで髪を叩きながら部屋へと戻ってきた。 時計を見ると午前4時。

こういった生活になることを想定していたわけではないが、鉄筋コンクリート造りのマンションを選んで本当によかったと思っていた。

もっともその理由は夜に心置きなくシャワーを浴びるためではなかったのだが。


―――長期休みだからこういう昼夜逆転生活にも慣れちゃったな・・・。

―――今日は午後から予定があるし早く寝ておかないと。

―――・・・でも呑気に寝ている時間なんてないか。


そこでインターホンに荷物が届いている旨のサインが表示されていることに気付いた。 マンションのセキュリティがしっかりとしておりロビーの集荷場まで行って荷物を取りにいかなければならない。

それでも宅配ボックスはかなりの数が用意されていて在宅していなくても荷物の配送を頼むことができる。


「え、荷物? こんな時間に? 特に何も頼んでいなかったと思うけど・・・」


もう一度時刻を確認する。 当然変わらず朝の4時を少し過ぎたところだ。


―――・・・それにこんな時間に取りにいったら迷惑になるかな。

―――でも、もしかしたら・・・。


疑問に思いつつも荷物の中身が気になりロビーへと取りにいった。 箱自体は大きかったが軽かったためすぐに持って上がれることができた。 


「届け先が書いていない・・・? でも今日は・・・」


今日は遥香の誕生日であり、知り合いの誰かからの贈り物だろうと躊躇うことなく荷物を開けた。 こういったことは後に回さず思い立った時に行動すると遥香は決めている。


「わぁ・・・ッ!」


入っていたものは花束と今までほしかったリップクリーム。 しかも丁寧に包装されていて一目で誕生日プレゼントだと理解した。


「これ超ほしかったヤツ!! でも一体誰からだろう・・・」


花束ということは異性の可能性がある。


―――仲のいい異性の人と言えばたった一人しかいない・・・。

―――きっと彼だ!!


急いでLIMEを開こうと思ったが思い留まった。


―――・・・お昼からデートの約束をしているけど、できれば直接今すぐに気持ちを伝えたい。


普段使うことのない花瓶を引っ張り出して水を注ぐと花束を生けて急いで髪を乾かす。 早速とばかりにもらったリップクリームを使いバッグの中にしまおうとする。

そこで自分の財布が見え一気に気持ちが沈んだ。 それなりに名の通ったブランドものであるからか余計に色褪せて感じられる。


―――・・・はぁ、財布を見るとお金のことを思い出して本当に嫌になる。

―――もうお金が厳しい。

―――最近あの人が来ないから・・・。


嫌な思いを打ち消すように首を振り家を飛び出した。 思い立ったら即行動。 直情的ではあるが遥香はこんな自分が好きだった。


―――・・・あれ?

―――というかシンジくんに私の住所なんて教えていなかったよね。

―――もしかしたら酔っている時にでも言っちゃったのかな?


荷物の送り主であろうシンジの家まで着くとインターホンを鳴らした。 シンジの家もそれなりに立派なマンションでエントランスから勝手に中に入ることはできない。

辺りは早朝ということもあり人はいなかった。


「・・・遥香? 何だよ、こんな朝っぱらに。 約束は午後からだったよな?」


出てきたシンジはホスト帰りだからか眠そうだった。


―――迷惑だった、かな・・・?


モニター越しとはいえ嫌な顔をされ来たことを少し後悔した。 だが気持ちを早く伝えたいという感情には勝てなかった。


―――昨夜も私はホストでシンジくんに席に着いてもらい一番高級なボトルを開けた。

―――だから多少は我儘で押しかけても大丈夫だよね?


「お仕事お疲れ様。 昨日もナンバーワン取れた? プレゼント、嬉しくてつい来ちゃった」

「プレゼント、って・・・」


今既にクリームを付けているとアピールするように唇を突き出す。 遥香はシンジの一番の太客。 一番お金を使っているためシンジは色々と贔屓してくれる。


「早くお礼を言いたくてすっぴんで来ちゃった。 すっぴんを見せるのはシンジくんだけだよ? 本当にありがとう!」


シンジは首を傾げながら頭をかく。


「そんなことのためにこんな朝っぱらから押しかけて来たのかよ。 よく分からないけど俺が許可していない時は家に来るな、って言ったよな?」

「そ、そうだけど・・・」

「疲れているのもあるし、もてなすことはできないから」

「わ、分かってる! 顔を見れただけでも嬉しかった」

「・・・本当に遥香は思い立ったら即行動で猪突猛進だよな。 とりあえず俺は寝るから帰ってくれる?」

「うん。 午後からのデートも楽しみにしているからね!」


返事もなくシンジはモニターから姿を消し真っ暗な画面が映し出された。


―――いきなり押しかけて迷惑そうだったな・・・。

―――でも思い立ったことはすぐ行動に起こしちゃうのが私。

―――それに私はシンジくんにとって一番なの。

―――この座は誰にも渡したくない!!



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