ガチ恋にハマった私③




一ヶ月前



「遥香ー! この後一緒に遊びに行かない?」


大学が長期休みに入る前のこと。 授業を終え帰る支度をしていると親友の陽向(ヒナタ)に誘われた。 別のことで頭がいっぱいテンションもマックスな遥香からしてみると水を差されたような形。

もちろん陽向のことは親友であると思っているし、だからこそその誘いを断るのは気が重い。


「あー、ごめん! 今日は無理! だって金曜日だもんッ!!」

「金曜日だからこそ遊びに誘っているんだけど?」

「金曜日だからこそシンジくんと長く会えるんだよ!?」

「もしかしてまたホスト?」

「そう! これからシンジくんとデートなんだー!! その後はそのままホスト店へ行ってねぇ」


懐にもそれなりに余裕があり、シンジの成績にもかなり貢献している。 そのおかげでシンジからの歓迎も強く扱いもいい。 


「全く、連れないねー。 最近私の誘いを断り過ぎじゃない?」

「そ、そうかな?」

「金曜日や休日じゃない日に誘っても断られていると思いますけど?」


―――まぁそりゃあ空いている日は稼ぎたいし・・・。


そう思っていると痛いところを突かれる。


「そんなに遊びまくってどこからそのお金が出ているのよ?」

「・・・べ、別に何でもよくない?」


Vチューバーをやっていることは誰にも明かしていない。 それは家族にも当然陽向にもだ。

別に秘密にしないといけないわけではないが、同業者が軽率な発言から身バレしたと聞いていて可能な限り気を付けている。

自衛のためではあるが、そのせいで陽向からも指摘され正直バツが悪い。 そこらでアルバイトをしているような人からすれば幾分か多く稼いでいる遥香は何となく後ろめたい気持ちにもなってしまう。


「まさか怪しいことに首を突っ込んでいるんじゃないでしょうね・・・? 私の友達の知り合いにパパ活して貢いでいる人が」

「いや、そんなことはしないし大丈夫! 健全健全。 真っ当な手段でお金を稼いでいます!!」


それにキャラクターと現実の差を見せたくないというのもある。 配信している時は別の自分であるようにも思えるのだ。


「何でもいいけどホストにハマり過ぎると危ないって!」

「だからそんなに心配しなくても大丈夫だって。 何、最近構ってあげられていないから寂しいの?」

「それもあるけど! お金の使い過ぎで借金とかしていないよね?」

「流石に借金しないといけなくなったら身を引くよ」

「それだと遅いんだって・・・」

「今までこんなにも人生で燃えたことなんてなかったの。 今が一番楽しくて私は幸せ!」


両手を頬にふわふわとした笑顔を見せる遥香に陽向は苦笑を浮かべる。


「もう何を言っても聞かないじゃない・・・。 本当、遥香ったら猪突猛進過ぎ・・・。 確かにここまで何かにハマる遥香も初めて見たけど」

「陽向の忠告もちゃんと心に届いております!」

「絶対に届いていないわよね。 はぁ・・・」


そう言うも遥香は最近常に浮かれっぱなしのため忠告を聞き流し陽向の話を聞くことはなかった。 呆れるように去っていく陽向の背にヒラヒラと手を振り、すぐに取り出すのはスマートフォン。

シンジからのLIMEを見て頬を緩ませると待ち合わせ場所へと向かった。 その日の夜、シンジと一緒にデートした後店へと向かったがシンジには待っている客がいた。

遥香は席へと着き他のホストと待っているよう言われた。 遥香はシンジにとっての最大の太客であるが、待っている相手も無視できないレベルにシンジに入れ込んでいる。

シンジは忙しそうにスマートフォンを操作しながら他のホストに頼んでくれるようだった。


「悪い、ちょっと俺他のテーブルへ行かないといけないから遥香の相手をしてくれる?」

「了解。 今の人相手し終わったらでいいか?」

「あぁ」

「何、仕事用の連絡?」


他のホストにスマートフォンを覗かれシンジはメッセージを閉じた。


「今日は遥香とデートだったから連絡が溜まっていてさ。 てか勝手に覗くなって」

「悪い悪い。 にしてもシンジのトップ画はアニメキャラなんだな。 意外だわ、アニメ好きなのか?」

「いや、そういうんじゃないから」


シンジがそのようなやり取りをしている中一人のホストが遥香の席へとやってきた。


「遥香ちゃん、だよね? こんばんは」

「あ、こんばんは。 シンジくんの代わりの方ですか?」

「いや、プライベートだよ。 個人的にね」

「個人的・・・?」


彼は遥香の隣へと来て距離を縮める。


「遥香ちゃんって本当に笑う顔が可愛いよね。 そんなに笑顔が似合う女の子なんていないよ」

「はは・・・」

「それに声もめっちゃ可愛い。 いつも遠くから見ていて凄く好みだと思ったんだ。 だからこれ、個人的だけど僕からのプレゼント」


そう言って小さな箱を渡された。


「わぁ・・・! これ高級な腕時計ですよね!?」

「遥香ちゃんにはこれくらいじゃないと格が合わないからね。 受け取ってくれる?」

「はい、もちろんです!! 大切にします」

「よかった。 やっぱりその笑顔が可愛いね」


褒め言葉やプレゼントをもらい気分がよくなった。 ただ繋ぎ相手にくれるには過ぎた代物というのが気になる。 名の通ったブランドものというわけではないが、10万20万くらいは軽くしそうなもの。


―――もしかしてお客さんからもらったものをくれたのかな?

―――それにたとえ本心じゃなかったとしても褒められるのは嬉しいものだね。


彼はルイと言うらしい。 遥香は片田舎の小さなホストクラブにしては金払いがいいため周りのホストからは羨ましがられていた。 だがそのようなことも知らず遥香は素直に喜んでいた。



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