第45話:森の王国ピカリャー

 八重山諸島の中で最大の面積をもつ、西表島。

 2021年7月26日に奄美大島、徳之島、沖縄島北部と共に世界自然遺産として登録が決定された島だ。

 日本産のマングローブ植物7種がすべて分布する唯一の島でもある。

 崎山湾・網取湾は自然環境保全地域に指定された。

 西表という地名の「表」は石垣島の於茂登岳おもとだけを指し、於茂登岳の「西」にある山の意とも言われている。

 西表島という名称が使われるようになったのは18世紀以降で、それ以前は所乃島や古見島と呼ばれていた。

 島の大半は山や森林で、川も数多く流れていて、カンピレーの滝・マリユドゥの滝・ピナイサーラの滝などの滝も多い。


 森の王国ピカリャー。

 西表島のどの辺りにあるのかなんて、俺に分かるわけがない。

 俺は、お城の謁見の間に直行転移されたからね。



「ようこそ、ピカリャー王国へ。私はこの国の王、マーヤ・メーピスカリャーです」


 イリオモテヤマネコの王様は、女王様だ。

 穏やかな口調で話す女王マーヤ様は、王座(座り心地の良さそうなソファ)から床へ降り立った。

 猫まみれ状態で謁見の間に転移してきた俺に、女王様は無防備に近付いてくる。

 俺に乗っていた護衛たちや、腕の中に納まっていたマーレー王子が、サッと離れて床に座った。


「人間を見るのは生まれて初めてよ。来てくれてありがとう、タマ」

「って、女王様も初対面なのに膝に乗っちゃうんですね」

「あなたが危険な者だとしたら、今ここには来ていない筈だもの」


 歩み寄ってきたマーヤ様は、迷わず俺の胡坐の中に納まる。

 護衛隊長は、今回は何も言わなかった。


「治療をお願いするのは私と、私の娘よ。まずは私の心臓病に治癒のフォースが効くか試してみて」

「OK」


 謁見からそのまま治療スタートになった。

 膝の上で仰向けになるマーヤ様。

 その心臓に意識を向けて診ると、動きが不規則なのが感じられた。



 肥大型心筋症

 心臓の壁が分厚くなって心臓が血液をうまく送り出せなくなる病気。

 心臓の中で血液の流れが滞っていると、そこで血液の塊(血栓)ができたりする。

 できた血栓は血流に乗って全身へ流れていき、血管が細くなる所で詰まると激痛が起きる。

 一方、血液が心臓へ戻らずに肺に溜まったりして、突然の呼吸困難を起こすこともある。



 仰向けになったマーヤ様は、肺に血液が溜まり始めている。

 俺はマーヤ様の心臓から血管、肺へとフォースを流して正常に働くようにイメージした。


 分厚く変形していた心臓の筋肉が、本来あるべき形へ戻り始める。

 肺に溜まりかけていた血液は血管を通り、心臓へと戻って正常に循環し始めた。


「ありがとう。凄く楽になったわ」

「すぐに動かない方がいいから、このまま抱っこして娘さんの治療しに行きますよ」

「お願いするわ。娘の部屋はあっちよ」


 治療が終わったマーヤ様を抱っこしたまま、俺は娘さん(王女様)の部屋へ向かった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る