第42話:絶滅危惧種
一度姿を現して以来、クリストファは姿を見せるようになった。
いつも傍にいるといっても、俺がトイレに入るときはついてこないけどね。
『遠慮しないで、トイレの怪談ごっこでもすればいいのに』
怪談好き(?)らしいケイトが、そんなことを言う。
怪談ではないけど、彼女は飼い猫の背後にキュウリを置いたこともあるそうだよ。
残念(?)ながら彼女の飼い猫は少々のことでは動じない性格で、平然とまたいで通ったそうだけど。
俺に付き添っているのがケイトじゃなくて良かった。
美女にトイレまでついてこられたら、怪談以前に色々と問題があるからな。
『僕はコーイチに悪戯する気は無いよ』
苦笑しつつ宣言するクリストファは、怪談は好みじゃないらしい。
彼が真面目な性格だったのは幸いだ。
「クリストファが悪戯好きじゃなくて良かった。トイレで用を足すときって無防備になるからな。いきなり何か出てきたら心臓に悪いぜ」
そう言った後、俺がトイレに入ったのはフラグが立ったのだろうか。
用を足してる最中ではなかったけど。
用を済ませて男子トイレから出た直後、いきなり誰かが目の前に現れた。
「あ! いたいた!」
「うわっ?! な、なに?!」
俺の視界を一瞬遮る、褐色の毛皮。
落下したからとっさに受け止めたけど、腕の中にスッポリ納まったのは知らない猫だ。
猫……だよな?
なんかちょっと違うような?
胴長短足で太い尻尾、後ろに白い斑がある丸い耳と幅広の鼻、淡褐色の毛並みに暗褐色の斑点、後頭部から額にかけて黒と白の縞模様、目の周りは白く縁どられている。
まさか、この猫は……
「もう絶滅したかと思っていたけど、残っていたんだねぇ」
「って、それ俺が言おうとしたんだけど」
……二千年前は絶滅危惧種だった、イリオモテヤマネコだ。
イリオモテヤマネコ(西表山猫、Prionailurus bengalensis iriomotensis)
ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類される、ベンガルヤマネコの亜種。
1965年、八重山列島の西表島で発見された、日本列島(西表島)の固有亜種。
2008年の査定では西表島でしか確認されていないことや個体数が減少を続けていることなどから、Critically endangered(絶滅危惧IA類)に分類されている。
「何を言っているんだい人間、今では君が絶滅危惧種じゃないか」
「イリオモテヤマネコも絶滅危惧種じゃないのか?」
「我々はもう絶滅の危機からは脱しているよ」
「そ、そうなのか……」
絶滅危惧種だった生き物に、絶滅危惧種扱いされる日がこようとは。
もう俺しか残ってないから、人類絶滅のカウントダウン入ってるよな。
「我々の祖先の死亡原因第1位は交通事故だったことは、知っているかい?」
「そういえば、聞いたことがあるな」
「人間が一斉に消えてしまって以来、交通事故で死ぬことはなくなった。我々の祖先もネコ族と同じく知性が高くなったから、健康に気を付けるようになって生存率が大幅に上がったんだよ」
人類が滅亡したことで、絶滅の危機から抜け出せた種がいたのか。
イリオモテヤマネコが絶滅危惧種ではなくなったのなら、ヤンバルクイナも増えているかもしれない。
どちらも、ロードキルと呼ばれた交通事故死が多かった生き物だ。
俺が複雑な気分になっていると、通路の先から複数の声が聞こえてきた。
「殿下~!」
「護衛を置いてっちゃダメですよ~!」
「1人で先に行かないで下さ~い!」
……って。
イリオモテヤマネコが集団でやってきたよ!
確かにもう絶滅危惧種じゃない気がする。
「ああすまない、早く人間を見たくて、つい
俺の腕の中で落ち着いちゃってる彼が答えた。
猫たちと同じく、イリオモテヤマネコもフォースを使えるらしい。
っていうか、殿下?
イリオモテヤマネコの王国が出来てる?!
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