第5章:猫の時代

第41話:霊の居場所

『霊魂の保存は、その人の脳にアクセスして電気信号化したデータを使っているんだよ』

『私たちはそこに、AIの技術と、オカルト分野の【霊気オーラ】や【精神スピリット】の概念を取り入れて、保存した思考データが自発的に行動したり、新たな記憶を増やしたり、今みたいに自由に可視化できるように開発したの』

「AIに実在の人物の人格をくっつけたって思っておけばいいか?」

『うん、大体そんな感じ』


 セバーズ兄妹が俺にも分かるように説明してくれたおかげで、霊魂の保存研究内容はなんとなく理解できた。

 OISTでは、1つの研究に縛られず、興味があれば他の研究に参加することができる。

 クリストファはコールドスリープ研究チーム所属だけど、ケイトから霊魂の保存研究を聞き、興味を持って参加していたらしい。


『データは僕とケイト、他にもケイトの研究チームのメンバー全員分が残っているよ』

「他の人はどこに? あ、いきなりまとめて出てこないでね。心臓に悪いから」


 予想通り、研究に関わった他の人々の霊もいるようだ。

 まとめて出てこられると霊気反応がキツそうだから、いるなら1人ずつ現れてほしいな。


『他の人たちは、今はここにいないわ』

『それぞれの家族のところへ飛んでいったよ』

「みんな、国に帰ったのか」


 どうやら、他のメンバーは自国へ帰っているらしい。

 OISTの生徒も教師も大半が外国人だ。


『私もカナダの実家に帰ったけど、廃墟に変わっていく家よりもOISTこっちがいいと思って戻ってきたの』

『僕は霊になった直後から、ずっとコーイチの傍にいたよ』

「二千年も付き添ってくれて、ありがとな」


 ケイトは学び舎を、クリストファは俺の傍を、居場所として決めたらしい。

 肉体は失っても会話はできるから、2人を幽霊ではなく人間として扱うことにしよう。


『コーイチが実家を見て泣いていたとき、抱き締めてあげられなかったのが悔しいよ』

「大丈夫だよ。猫たちがいるから」


 クリストファは自分が死んだということよりも、俺に触れられないことを悲しんでいるようだった。

 その会話(といっても俺が声に出して言っていることだけ)を聞いていたミカエルが、何か察したようにピョーンと飛んで俺の腕の中にスッポリ納まる。

 ミカエルは最近は母猫ポウと共に遺跡調査に出ることもよくあり、今日も調査チームに加わっていた。

 俺が目覚めた頃は両手に収まるくらい小さかった仔猫は、今では成猫の半分サイズに育っている。


「タマは、ボクが寂しいとき、一緒に寝てくれたよね。ボクもタマが寂しいときは、一緒に寝てあげるよ」

「うん、ありがとう」

『いいなぁ、僕も加わりたい……』


 腕の中で伸び上がるようにして抱きついてくる仔猫(やや大きめ)に、今日も癒される。

 クリストファは猫をモフれないから(多分)、ちょっと残念そうだった。



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