第22話:一面の稲穂

 家庭菜園を始めて半年過ぎた頃。

 遂に…待ちかねた「米」の収穫期がきた!


「懐かしいなぁ、この稲穂が広がる風景」


 研究所の屋上に育つ稲を眺めて、俺はじんわり感動している。


 俺が生まれ育った地域では、米の二期作が行われていた。

 2~3月に田植えをして、5~7月に1回目の稲刈りを行ない、8月に田植えをして、10~11月に2回目の稲刈りを行なうという、年2回の米の収穫。

 だから、半年ごとに稲穂を見られるというわけ。


 当たり前にあったその風景は、人類の滅亡と共に失われた。


「人類の文明があった頃は、この植物をたくさん育てていたの?」

「国にもよるけどね。日本では各地で栽培していたよ」


 猫たちは米を食う習慣が無い。

 だから当然、稲なんか栽培しない。

 かつて田んぼがあったであろう土地は、全て雑草が生い茂る草原や、鳥たちが運んだ種から芽吹いた木々が茂る雑木林などに変わってしまった。


 今では、広大な大地に黄金色の穂が広がる風景を知る者は、俺しかいない。

 育てた稲の穂先に片手で触れてそう思うと、少し切ないような気持ちになった。


「タマ、頼まれてた機械を作ってみたよ」

「ありがとう!」


 ハチロウ&制作チームが転送してくれたのは、稲や麦を刈り取りながら脱穀する機能を備えた農業機械だ。

 俺は二千年前の農業機械の詳しい構造などは知らないから、大量の稲穂を刈り取り、籾殻(もみがら)を穀粒からはずす作業をするマシンが欲しいとリクエストしただけ。

 たったそれだけの情報で二千年前の機械よりもコンパクトで便利なマシンを開発するのだから、ハチロウは天才発明家といってもいい猫だと思う。


「その機械はなぁに? これから何するの?」

「この植物たちから、食べられる部分を取り出すんだよ」

「この粒の中に、俺がいつも食べている【米】が入っているんだよ」


 興味津々のミカエルに、ハチロウと俺は簡単に説明してあげた。

 収穫は新作の機械に完全お任せで、俺たちはそれを眺めながらノンビリ喋っているだけ。

 オートマチックな収穫の後は、採れたての新米を食べる楽しみが待っている。

 炊飯器もハチロウ作で、水道を分岐させた管が接続されていて、米をとぐところから全自動だ。


 初収穫の米は、甘みがしっかりあって適度な粘りもある、美味しい白飯になった。

 自分が育てた米という贔屓目を除いても、OISTに保管されている米の倍くらい美味だ。

 イナリがくれた魚を焼いて、アンナがくれた肉と自分で作った白菜ですき焼きを作って、ディナータイム開始。

 すき焼きに使う卵もアンナがくれた。

 この卵が濃厚で、すき焼きに絡めたら何杯でもいけそうなくらいごはんがすすむ。


 猫たちには調味料不使用、ちゅーる入り水炊きを作ってあげた。

 白飯を少し添えて味見してもらったよ。


「ほうほう、これがタマが作った米か」

「遺跡にあるものより甘い味がするね」

「焼いた魚との相性バッチリだね!」

「水炊きの中に入れた雑炊もいいね」


 研究所のメンバーにも、なかなか好評っぽい。

 猫たちは小麦だとグルテンでアレルギーが出たりするけど、米は比較的アレルギーが少ないらしい。

 食べ過ぎたりしないなら、米は猫に無害だった。

 残念なのは、炊き立てアツアツの美味しさを共有できないことかな。



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093085337765524

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