第19話:猫以外の知的生命体

 猫たちに囲まれ(乗られ)ながら露天風呂を楽しんでいたら、猫じゃない者に声をかけられた。


「お~! 本物の人間だぁ!」


 って喋るから、通りすがりの猫かと思ったんだけど。

 振り返って見た相手は、猫とは形状が異なる生物だった。


「えっ? キツネ?」

「おお、言葉も通じるのか。会えて嬉しいよ、タマ」


 ニコニコしながら温泉の端まで歩み寄ってきたのは、明るい茶色の毛並みとフサフサシッポの生き物。

 猫よりも犬に近い体型のモフモフは、キタキツネだった。

 俺の呼び名を知っているのは、村猫たちから聞いたのかもしれない。

 文明を築いた猫たちはともかく、他にも高い知性を持つ動物がいることを、この時俺は知った。


「僕の御先祖様は、この辺りで人間にゴハンを貰っていたんだ」

「キツネ牧場のキツネの末裔?」


 そういや、動物番組で北海道にキタキツネ牧場があるとか言ってたっけ。

 二千年以上前だけど。


「ううん、違う。僕の御先祖様は野生のキツネだよ」

「野生動物で餌付けされていたのかな?」

「そう。猫たちと一緒にゴハンを貰っていたんだよ」


 話しかけてきたのは、地域猫ならぬ地域キツネの末裔らしい。

 ふと見れば猫たちはキツネを見ても驚きもしない。


「キツネたちもどこかで街や村を作って暮らしているの?」

「ううん、それはないよ。僕の血族以外は昔と変わらないキツネだからね」

「つまり、君の一族だけ特殊な進化をしたとか?」

「そうみたい。猫たちと暮らしていたら、フォースを使えるようになったり、ちょっと頭が良くなったりしたんだって」


 その話を聞いて、俺は何故自分がフォースを使えるようになったのか察した。

 多分この力は俺が潜在的に持っていたものじゃなく、猫たちとの生活で影響を受けて目覚めたものなんだろう。


「あ、そうだ思い出した。大昔の人間は【エキノコックス】を警戒して僕の御先祖様には絶対に触らなかったそうだけど、今は根絶しているから感染の心配はしなくていいからね」

「エキノコックス? 何かのウイルスだったのかな?」

「寄生虫だよ。タマは南国の人だから知らないかな? 北国にはキツネや犬に寄生する虫がいて、それが人間の体内に入ると死の病を起こしたんだって」

「根絶してくれて良かった~」


 北国にあったというエキノコックス。

 幸い、今は無くなったらしい。

 つまり今ならキツネをモフれるってことだ。


「じゃあ、人生初のキタキツネ撫で撫でしてもいい?」

「どうぞ~」


 ということで、俺は猫以外のモフモフを存分に楽しませてもらった。



※画像:川湯温泉で野良猫ち一緒に餌づけされたキツネ

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093085152158777

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る