第18話:古代の温泉街

 北国の村猫全員(ついでにハチロウとイナリも)を健康優良猫にしちゃった後。

 興奮冷めやらぬといった感じでシッポを膨らませて目を真ん丸にした猫たちは、俺を天然温泉にご招待してくれた。

 研究所にはシャワー室しかないから、ゆっくりお湯に浸かるなんて二千年以上ぶりだ。

 南国では湯船に入ることはほとんど無いから、那覇市牧志の「りっかりっか湯」に入って以来かもしれない。


「この辺りは昔、人間たちが街を作って暮らしていたのよ」


 俺に抱っこされながらルネが言う。

 言われてみると、周囲の風化した建造物は明らかに鉄筋コンクリートでできている。

 多分、旅館かホテルだった建物なんだろう。


「ここらを流れる川は、お湯が流れているんだぜ。鮭はいないから俺には用のない川だけどな」


 隣を歩くイナリが教えてくれた。

 朽ち果てた建物を見ると「川湯温泉」の文字があった。

 きっと二千年前は温泉街だった場所なんだろう。


「ボクたちの御先祖様は、ここにあった人間の街でゴハンをもらっていたらしいよ」

「倉庫を1つ出入り自由にしてもらって、そこを住処にしていたんだって」


 案内で同行している村猫たちが、自分たちのルーツを語る。

 彼らの祖先は、猫好きの人間たちに食べ物を貰って暮らす地域猫だったらしい。


「さあここだ。雪を見ながらゆっくり浸かるといいよ」

「お~! 露天風呂だ!」


 ご招待された温泉は、雪よけの屋根が付いた東屋風で、周囲は手入れされた庭園が広がっていた。

 北国の猫たちは真冬には服を着るそうで、温泉には脱衣所もある。


「はいこれ。タマはお風呂に入るとき、いつもタオルを使うから」

「お、ありがと~」


 気が利くハチロウにフェイスタオルを渡されたよ。

 俺は抱いていたルネをお休み処のソファに置いて、脱衣所に入ると服を脱いでタオルを腰に巻いた。


 脱衣所から露天風呂までは寒い外を歩くので、フォースで防護膜を張るのを忘れずに。

 お湯に浸かっている間は防護膜を解除して、ゆっくり温まる。


「あ~、温泉はいいねぇ」

「湯上りに齧るマタタビが最高なんだよな」


 って。


 なんか両脇からオッサンみたいな会話が聞こえるけど。


「あのね、昔の人間は温泉に入るとき、何かを頭に乗せていたんだって~」

「ふうん、そうなんだ~。何を乗せていたんだろうね?」


 って。


 なんか仔猫が頭と肩に乗ってるけど。


「それは多分タオルで、猫ではないと思うよ」


 頭の仔猫が落ちないように気を付けつつ。

 まあ、落ちてもお湯の中だから平気だけど。

 俺はとりあえず、そのまま露天風呂を堪能することにした。



 ※18話の裏話と画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093085091191806

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