最終話:心をひとつに。
「……無事に終わったぜ、奈美。」
郊外の墓地で、ひとり花を捧げる虎太郎。
なかなか奈美の死と向き合えなかった虎太郎であったが、北条を自らの手で逮捕し、『神の国』一連の事件に終止符を打ったことで、少しずつ心に余裕が生まれた。
そして、奈美の死から半年近く経ち、ようやく彼女の墓に足を向けるに至ったのであった。
「結局、特務課は無くなっちまってさ。俺は何だかんだで捜査一課に推薦してもらえたよ。今じゃあのウルセェ稲取さんの下で働いてる。ま、事件を追うって意味ではなにも変わってないからな。俺はこれからも続けるよ、刑事。」
手を合わせ、近況を奈美に報告する虎太郎。
『神の国』事件の後、特務課は解散となった。
メンバーが事件の黒幕であったこと、事件解決のためとは言え、規定違反があったこと。
総合的に審査され、メンバー達はバラバラに配属されることになった。
「まぁ……型破りではあったからなぁ、特務課は。全員クビにならなかっただけでもありがたいぜ。」
小さく笑うと、虎太郎は立ち上がる。
「あんまりサボってると、また稲取さんにどやされるからな。そろそろ行くよ。また来る。」
まるでその場に奈美がいるような、そんな優しい笑みを虎太郎は浮かべると、奈美の墓を後にした。
虎太郎は北条逮捕の功績を称えられ、警部補昇進の話もあがったのだが……
「俺、身内を逮捕した功績とかいらねぇし、これまでの事件も北条さんがいたから解決できたようなもんだ。自分の力で昇進は掴み取りてぇ。周りの人みんなが納得するような、そんなスゲー刑事になったとき……その時は、お願いします。」
今回の昇進を、虎太郎は辞退したのだった。
自分ひとりの力では、まだ何も出来ていない。
大切な人も失い、仲間が犯罪者達の黒幕であることも見抜けなかった。
もし、自分に北条ほどの能力があったなら、もっと良い結果があったのかもしれない。
虎太郎は、自分の未熟さを痛感していたのだ。
故に、もっと実力を磨き、刑事として住民に、そして仲間達の信頼を得たときまで、上に行くことはしない、そう決めたのだった。
「別に、俺が昇進しなくても悲しむ奴なんていねぇし、何より今の給料でも充分食っていけるしな。贅沢するのはまだまだ先よ。」
とにかく無欲なこの男。
後に、高橋、北条に続く『捜査一課の伝説』となるのだが……。
それはまだまだ先の話である。
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