12-6

……時間が来た。


司は、最後に車両無線に向かって話す。

相手は、SITの小泉。



「……定刻です。」


「了解しました。」



この、一言ずつのやり取りで、二人の心は決まった。



司は集まったあさみ、稲取をはじめとする捜査一課組を。

小泉は隊長・古橋の抜けたSITを率いてそれぞれ歩き出す。



「行きましょう!!」


「……前進!!」



示し合わせるほど近い距離ではなかった。

それでも、司と小泉は同時に号令を発したのだった。



勢いよく進んでいく、捜査一課とSIT。


最終目的地に向かい、2方向から攻めあがっていく。



「とりあえず一課のみんなは、敵に接触した時点で私の指示に従ってくれる? 

 稲取さん、それでいいよね?」


「あぁ、問題ない。いいかお前ら! この姉ちゃんは俺たちよりもずっと野戦スキルが高い! しっかり指示に従って動くんだ。小娘だからって甘く見てたら命を落とすぜ!」


「小娘って……。まぁ、いいわ。よろしくね、『オッサン』!」


「ぐぬぬ……オッサン……。」



憎まれ口を叩きながらも、しっかりとコミュニケーションをとっていく、あさみと稲取。



「こちらの連携は充分のようね。」


その様子に、司も安堵する。



「それはそうと、長塚はどうした? こっちに一緒に来ていたはずじゃなかったのか?」



稲取が、その場に虎太郎がいないことに気付く。


「えぇ。途中までは同行していたんだけど……。辰川さんが、まだ東京に懸念材料があるみたいで、今は二人で行動してるます。」


「そうか……まぁ、あの辰川さんなら考えなしに戦力を抜くことなんてしないはずだ。何か見つけたんだろう。あの人は、爆処理のエースであると同時に、優秀な捜査官だった人だからな。」


「へぇ……私にはただのお気楽おじさんにしか見えなかったけどなぁ……。」


「それだから小娘って言うんだよ。お前の周りには、レジェンド級の優秀な捜査官が集まってるんだぞ。」



稲取は特務課とは別の一課に所属しながら、一課の軌跡を、そして特務課に属する刑事たちのこれまでをずっと見てきた。

だからこそ、余計に思うのだ。



「警視庁を、各課に分けずに特務課に統合しちまえばいいのにな……。そんなことを思ったこともあるよ。」



特務課の実力は、認めるべき大きな存在であるということを。



「稲取さん!!」


「なんだ?」


「前方に人影を発見! ……民間人のようです。」



刑事の一人が指をさす。

そこには、少女の姿があった。



「……!! ダメ! あの子に近づかないで!!」



何も知らない刑事は、少女に歩み寄っていった……。


「……え?」



なんの警戒もせずに少女に近づいた刑事。

つきの瞬間には、中を舞っていた。



「投げられた……だと?」



その光景を目にした稲取が、信じられないといった様子で刑事を見る。



「よし、捕えちゃえ!」



刑事を投げた少女が右手を上げると、それを合図に十数名の男達が木陰から一斉に姿を表した。



「あの女だけはあまり傷つけずに捕えて。あとの雑魚達は……まぁ、殺さなきゃいいわ。てきとーに痛め付けちゃって。」



待ち構えていた少女は、ジョーカーだった。



「まさか、こっちに来てたか……。まだ古橋さんの方がやりやすかったんだけど。サイアク……。」


あさみが舌打ちする。


殺し屋としての英才教育を受けてきたジョーカーが相手よりも、部隊としての訓練を受けてきた古橋の行動の方が読みやすい。

もし、こちらに古橋が来ていれば、あさみのこれまで培ってきた経験とノウハウで、古橋達を退けることが可能だったかもしれない。

小泉の方は、適当なところで退避させてしまえば、犠牲なく目的地に到着することが出来る。


あさみは、そちらの可能性の方を願っていたのだ。



「……まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ないよね。あの女、日とを殺すことに躊躇ないみたいだけど、今回は殺しちゃダメだと言われてる……?」



あさみは、ジョーカーの言った「殺さなきゃいいわ。」という言葉が引っ掛かっていた。



「これまで非道な殺人事件を繰り返してきた『神の国』でしょ? その幹部なのに殺すのはダメだと釘を刺されている?」



もう、ここまで来れば何人殺しても同じ、そう思うのが犯罪者の心理のはず。

それでも、命を奪うことを止められているということに、あさみは困惑していた。


しかし、すぐに頭を振り、平常心を呼び戻そうとする。



「まぁ、考えていても仕方ないわ。不思議だと思うなら、あの女を捕まえて吐かせればいい。それだけよね。」



あさみは、両手で自分の両頬を力強く叩く。


それは、恐怖心に打ち克つため。

自分よりもスキルの高い、純血の殺し屋と相対するための気持ちの整理であった。



「おい、クソガキ。ここであんたを逮捕するから、覚悟しとけよ!」


まるで虎太郎が言うかのように、あさみはジョーカーを睨み付けた。



「ウケる~! 今さら怖くもなんともないんですけど~。アンタ、正直気に入らないんだわ。手足を折って、気に縛り付けて痛めつけて……そのまま放置してやる。今は殺さなくても、自然に死んじゃう分には構わないよね?」



その目には、恐ろしいほどの殺気が宿っている。


「……っ! こっちこそ、その整った顔、あんたの涙でぐっしょぐしょにしてやるわ!」


気圧されたら敗けだ。

あさみも必死に足を踏ん張り、ジョーカーに言い放つのであった。


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