12-5
「新堂司令、小泉です! まもなく神奈川県に入ります。ここから先は車両無線を使いながら連絡を取り合いましょう!」
県境を越えたところで、SITの臨時隊長の小泉からの連絡が入る。
「了解です。目的地のデータをメールで送るわ。」
司が辰川から預かった図面を写真に撮り、そのままメールに添付する。
庁内ではそれぞれ社内用の携帯電話が支給されており、勤務している者全員の番号が登録されている。
ゆえに、個人的な交流がなくても、データや音声などを共有することが出来る。
「目的地、確認しました。この網掛けになっている部分は、敵勢力が潜んでいるところ、ですね?」
「その通りよ。この場所から真っ直ぐ目的地に向かうと、ちょうどその敵勢力に挟み撃ちにされるみたい。ここは少し迂回する形になるけれど、海岸から目的地へ向かいましょう。私の記憶が確かなら、海岸からも目的地に向かう道があるはず。」
「了解しました。」
司と小泉が、おおよその計画を立てる。
「あとは、それぞれの勢力の頭がどちらかということだけだね。」
「そうね。……出来ればふたりとも争わずに投降して欲しいところだけど……その望みは薄そうね。」
ジョーカーと古橋。
野戦を得意とするふたりがそルぞれの場所に陣取っていると考えるのが自然だろう。
「私達だけでそのどちらかを退けることが出来るかどうか……」
「めっちゃ厳しい戦い、だよね。」
古橋には、うまく出し抜かれてしまった。
ジョーカーに関しては、なにも出来ないまま逃走を許してしまった。
そのどちらかが必ず立ちふさがっているのだ。
不安にならないわけがない。
「でも、やらなきゃ。」
「そうね。私達は彼らを止める義務がある。」
これまで幾度となく、大きな組織、強大な犯人と向かい合ってきた。
そして、それら全て逮捕してきた。
自分達なら出来る。
これまでに培ってきた実績、そして経験を信じよう。
司はそう、心のなかで繰り返していた。
神奈川県に入り、暫くすると……。
「着いたわ。葉山よ。」
「小泉隊、現着!」
ほぼ同時刻に、司とあさみ、そして小泉率いるSITは葉山の地に降り立った。
「さぁて、どっちが出るかな……ま、どっちがきても最悪、だけどねぇ……。」
あさみが最終目的地点の方角を見ながら、苦笑いを見せる。
「そうね。でも、私達なら出来る。やらなくてはならない。」
不安、そして恐怖。
その二つの感情を必死に押さえつけながら、司は静かに呟く。
「これで、終わりにしましょう、一誠……。」
――――――――――――――――
「おい新堂、俺たちも着いたぞ。どっちに合流する?」
そして、稲取率いる捜査一課の有志も葉山に駆けつける。
今回は隣県・神奈川での大捕物。
本来であれば神奈川県警が主体となって動き、司達はそのバックアップに回るしかないのだが、今回は神奈川県警がバックアップするという異例の運びとなった。
その最大の要因は、北条より総指揮を引き継いだ熊田の力によるものである。
熊田は少し前に、日本最大の極道組織を解散へと導いたという、半ば伝説とも言える手腕があった。
そんな熊田からの要請に異を唱えるような、そんな刑事が神奈川県には居なかったのだ。
「本当に、うちの刑事達は規格外の人たちばかりね……。小泉さん、一課の方々はどうします?」
「こちらにはSITの隊員がいます。今現在、お二人しかいない新堂司令の方に合流を!」
「おうよ、すぐに向かうぜ!」
こうして、海側から目的地を二点突破する準備が着々と整っていく。
「稲取さん、こちらまであとどれくらいで?」
「あぁ、5分ってところだな。」
「了解です。では、15分後に目的地へ向かって進み始めることにしましょう。各個撃破されないように、足並みを揃えて上っていくことにします。」
司がおおよその作戦を立てる。そして……
「約束事はひとつだけ。『決して死なないこと』。犯人逮捕に躍起になって、自分を危険に晒すことはありません。危なくなったら退避。犯人達が逃げてしまったら、また追えばいい。私達は、犯人を追うことを絶対に諦めない!」
それは、司の決意表明のように聞こえた。
しかし、それだけでも葉山にいるメンバーを鼓舞させるには充分であった。
「了解!」
「了解したぜ!」
「必ず、全員生きて! 犯人逮捕するよ!」
こうして、これ以上ない士気の中、最後の大捕物が始まろうとしていた。
「虎太郎くんの方にも連絡を取っておきましょう。」
司が車内無線で虎太郎に現状を報告しようとする。
「大体は車内無線で聞いてたぜ。さすが司令、痺れたぜ。俺も、出来るだけ早く『こっちの用事』を片付ける。お互いにベストを尽くそうぜ!」
虎太郎も、移動中に車内無線で司の言葉を聞いていたらしい。
「やっぱり、現場に出てても司令は司令だね。あと一息、黒幕のところへの道は、私と一課で開いていくから、司令はただひたすらに前へ……黒幕のところに向かって!」
あさみもやる気充分のようだ。
あさみ自身、自分の役割は司を灰島のもとへ送り出すことだと思っていた。
「ありがとう。みんなでベストを尽くしましょう。この一連の事件、今日で終わりにします!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます