11-3

一方、狙撃手・高橋を逮捕した北条達は、警視庁前で立ち往生してしまっていた。



「……駄目だ。中にいる奴らと連絡が取れねぇ。」


「特務課の無線も、なんか雑音が入るんだよなー」



稲取、そして虎太郎がそれぞれ仲間と連絡を取ろうと試みるが、なかなかうまく行かない。



「全ての出入口ごロックされ、シャッターも下ろされてる……。中に入ることも出来ないのか…。」


「でも、逆に侵入した奴らも出られないんじゃない?」



北条、あさみ、そして辰川は警視庁の外周を歩きながら、侵入経路を探す。


「そんなに馬鹿じゃないよ、うちらの幹部達は。出入口を封鎖した奴が、一緒に中に入ってる。出るときはそいつがちょちょいと操作するだけさ。」 



高橋は稲取と一緒に行動していた。

もう逃げる気もないらしく、手錠をつけたまま、稲取と同じところに留まっていた。



「なるほど、じゃぁハッカーか何かが同行してるって訳ね。」


「ってか、『神の国』の幹部って何人いるんだよ。全く次から次へと……。」



虎太郎が思っていたのは、幹部の数の多さ。

香川、F、そして桜川……と、神の国でも力を持った存在は多かった。



「これまでの事件の犯人、本宮、姉崎、桜川、そして、香川。あいつら皆、幹部じゃないよ。」


「……マジ?」


「あぁ。あいつらは『幹部候補』にすぎない。だから俺達『幹部』の指示に従い、送られてきた物資で犯行を重ねたんだ。……まぁ、桜川に関してはもう幹部みたいなものだったけどな。あいつにはあいつにしか出来ない仕事があった。」



「じゃぁ、実際のところ、幹部は何人いるんだよ!」



高橋は、指を降りながら考える。



「まず盟主。そして『JOKER』、『アサシン』、『ハッカー』に『ドクター』、そして俺こと『狙撃手』。」この5人がいわゆる『幹部』というやつだ。



「なるほど。その一角をようやく俺達は逮捕したということだな?」



「そうそう、だからこっちは強行手段に出たんだよ。残りの幹部を全員投入してでも、目的を果たそうとな。」



特務課メンバー達も足取りを追うことが出来なかった、幹部達。

そんな彼らは自分達のほうから警察にやってきたと言うのだ。



「そいつら、どんなヤツなんだよ?」


虎太郎が苦笑いを浮かべながら高橋に問う。

虎太郎とあさみが協力して、辛うじて退けることが出来た『アサシン』。


彼と同じクラスの幹部が、高橋を除くとあと3人もいるのだ。



「アサシンは殺し屋、ハッカーは悠真みたいなもんだろ? ドクターは医者……薬関係を操るのか?」



それぞれの役割か知りたい。

虎太郎は高橋に視線を向けた。


「ひとりだけ、俺も正体の分からないヤツがいる。」


高橋が、真剣な表情で話す。



「ジョーカー……そう呼ばれる少女がいるんだ。そいつの素性だけは、俺も知らない。」


「高橋さ……狙撃手も知らない、幹部がいるってことかよ……。」



警視庁に大胆にも潜入するという重大な局面に現れた幹部達。

その存在がいかに驚異であるかということは皆、分かっていたことだったが、この中でも高橋が知らない幹部がいることに驚いた。



「アサシン、ハッカー、ドクターの3人は、俺とも一緒に行動したことのあるヤツだからよく知ってる。だが、ジョーカーに関しては、性別……少女であること以外はなにも知らない。」



北条は、そう話す高橋の手が小刻みに震えているのに気付いた。


(高橋さんほどの殺し屋でも、恐怖を感じる存在って言うこと……?)



「ジョーカー、文字通り切り札。俺やアサシンが仕損じた標的がいたとしても、ジョーカーが出向けば必ず仕留められる。そう『彼』は言っていた。仮に逃がしてしまい警戒されても、ジョーカーは確実に仕留めることが出来る、とも……。」



「だから、ジョーカーか……。死神、最終手段……『JOKER』という言葉が持つ意味は多い。きっと、組織にとっては見たら最期、命はないっていう意味のジョーカーなんだろうね……。」


「そんなジョーカーが、わざわざ出向いてきた。それだけ仕留めたい標的がいるってことだな。そしてその標的が……遠藤副総監。」



虎太郎が拳を握り、副総監がいるであろう警視庁ビルの上階を見上げる。


「どっちにしても、まずは中に入らねぇことには始まらねぇ。手動で開けたり出来る仕掛けは?」



虎太郎が、古橋に問う。



「そもそも、外部からの侵入と、内部からの逃走を防ぐために設置されたシャッターだ。外から開け閉め出来る装置など無い。一部の人間はリモコンを持たされるが、それも上層部の人間だけだ。」


「じゃぁ、リモコン無しでシャッターの開け閉めをするとしたら……」


「あぁ、システムを乗っ取るしかない。しかし、警視庁のシステムをハッキング出来る者などそうはいないぞ? 国でもトップのセキュリティだからな……。」



「でも、そいつを破って奴らは中に入ってまたシャッターを閉めた。それほどの人間が中にはいるんだ。」



虎太郎は、どうにかなら無いものかと考え込む。そして……。



「問題ねぇ。ひとりだけいるじゃねぇか!」



虎太郎は、ある人物の存在を思い出した。



「いるぞ、ウチの課に。そのハッカーに対抗できる、凄腕がさ!」


「侵入した4人はまだ歩いてる。あのハッカーが端末を操作する前にこっちでせめて入口のセキュリティをどうにか出来れば……。」



特務課司令室の中では、悠真が奮闘していた。

怪我人を収容した各課の事務所のロックを外し、自由に警官たちが出来るようにした。


まずは人命優先、という司の指示によりものだった。

そして次の指示はふたつ。



まず一つは、遠藤副総監の執務室へ向かうまでの経路を、出来るだけ封鎖すること。

4人の足を少しでも遅らせられれば、その分逮捕の確率が上がる。

そしてもう一つが、警視庁の外に置き去りにされている虎太郎たちを中に入れるようにシャッターを開くこと、である。



特務課メンバーはもちろん、外には捜査一課の稲取、そしてSITの古橋と、警視庁のエースが残っている。

彼らが中に入ることで、現在全く歯の立たなかった4人相手に互角に渡り合える可能性が出てくる。



そのために、必要なタスクが、もう一つ。



「まずは……うーん、何から取り掛かろうかな。遠藤さんが殺されちゃったら一気にゲームオーバーでしょ?」


「ゲームオーバーって……ゲームじゃないんだから……。」


「でも、そう思った方がスリルあるでしょ?」



悠真が楽しそうな笑みを浮かべる中、隣の志乃は複雑な表情をする。



「まぁ……それで悠真くんが全力を出せるならそれでいいでしょう。悠真くん、この『ゲーム』に難易度は?」


「相当だよ。ボスキャラが4体も……しかもラスボスまでいるんだから。でも、外には強力な増援部隊がいる。敵の進軍を食い止めながら、増援部隊を迎え入れてボスを倒す……。これはなかなかやりがいがあるよ。」


悠真がニヤリと笑う。

しかし、その手は小さく震えていた。

その様子を、隣に座る志乃が見ていた。



(そんなこと言っているけど……相当なプレッシャーなんでしょうね……。)



この悠真の『ゲーム』は言わば警視庁の、しいてはこの日本の命運をかけた大ゲームなのである。

その行く末が、悠真の指先にかかっているのだ。



「……悠真。」


その様子を察してか、司が悠真に声をかけた。


「あなたにすべてを委ねているわけじゃない。あなたがもし失敗したら、今度は違う策を使うだけ。虎太郎くんや北条さん、稲取さんに古橋さん……あさみだって辰川さんだっているわ。悠真くんが上手くいかなくても、そのメンバーなら何とかしてくれると思わない?」


自分は独りではない。

仲間がいるのだ。


そのことを、司は悠真に伝えたかったのだ。



「うん……そうだね。虎太郎ならあんなシャッター、力任せに破りそうだしね。ありがとう司令。気持ちが楽になったよ。……よーし、やるぞ!!」



悠真の表情から、迷いが消えた。


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