11-4

悠真がシャッターと施錠の解除に取り掛かり、すでに20分。

同時に『神の国』グループの足止めも同時進行している悠真には、明らかに疲労の色が見て取れた。



「こっちがいくらセキュリティロックを掛けても、相手はひとつひとつ丁寧に解除してくる……。ハッカーらしくないんだよね、コイツ……。」



悠真がひとつずつ、侵入されているセキュリティを強化しているのだが、『ハッカー』はそれをひとつひとつ確実に解除していく。



「まるで、ひとつずつ鍵をかけ直してるのに、すぐにヘアピンで開けられてるような……嫌らしいなぁ、こんなやり方、昔に一度だけ……あ。」



そこまで言ったところで、悠真は過去にこの手のハッカーと戦ったことを思い出した。



「まさか……まさかの……?」



その手口、癖……

悠真は、その全てを知っていた。



「もしかしたら、倒せるかも。」


「え?」


「コイツ……僕の知り合いかもしれないんだ。」



知り合いというほど親しくはない。

ネットの世界の中で、同じタイミングで同じようにもてはやされた存在のひとり。


たまたま同じシステムに侵入しようとして、互いに邪魔し合った間柄。



「鍵開け屋……ここの鍵は、開けさせないよ。手口や癖が分かった以上、こっちにはいくらでもやりようがある。特務課……なめるなよ。」



悠真が自身の机の引き出しから、チョコレートを出し、口に放り込む。



「……よーし、やるぞ!」



糸口が見えて士気が上がったのか、悠真のキーボードを操作する音が次第に早くなっていく。



「志乃さん、ちょっとだけ手伝って!」


「私!? 私、ハッキングとかの技術は……。」


「それは僕の仕事。志乃さんは、僕が制御可能にしたタイミングで、通常操作でドアオープンして欲しいんだ。その操作に費やす時間が惜しい。」



相手は制御不能にするだけ。

しかし、悠真は制御可能にしてから、扉を開けるという2つの行程を必要とする。

扉を開ける操作をしている間に、再び制御不能にされてしまうと、また手順が振り出しに戻ってしまうのだ。



「……了解。合図をちょうだい。」


「……ありがと!」



しかし、今回は独りではない。

隣には、警視庁内を知り尽くす才媛が控えているのだ。



「ひとつだけ……忘れてるよ。」



キーボードを操作しながら、悠真が笑う。



「確かにアンタのやり方は、丁寧で確実だ。でもね、アンタは今まで、この僕にスピードで勝てたことはないんだよ! たとえ雑で失敗してしまったとしても……。」



目まぐるしい速度でモニターの文字列が流れていく。



「失敗したら、相手が成功するその前に、成功させてやればいいだけさ!」



悠真は、ようやく吹っ切れた。

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