10-11

「なぁ、高橋さん、『もう遅い』ってどういうことだ?」



一方。

高橋を乗せた車の中で、稲取が高橋に問う。



「俺たちの目的は、警察に捕まらないように警察を粛清することじゃない。たとえ警察に逮捕されたとしても、復讐の炎を絶やさず、目的を達成することにあるんだ。目的が達成できるなら、正直盟主など誰でもいい。『彼』はそう言っていたよ。」


「彼……だと? そいつは誰なんだ?」


「もうすぐ分かる。」


「もうすぐ?」


「あぁ。俺たちが警視庁に着いたとき、もしかしたらその時にはもう、全てが終わっているかもしれないがな。」


「……なんだと?」



意味深なことを言う高橋。

稲取に、この言葉の真意は汲み取ることが出来なかった。



「まぁ、もし俺が北条さんだったら、あんたの言う言葉の意味も分かるんだろうが……俺は俺のやり方でやらせてもらう。犯罪者がいるなら、俺はこの手で泥臭く逮捕してやるだけだ。頭使うのは北条さんたちだけで充分さ。」


「……変わらないな、お前も。だから、お前は陰に隠れちまうんだよ。能力だけなら北条をしのぐモノを持ってるのによ……。」


「……余計なお世話だ。俺は出世とか名声に興味はないんでね。それが目的で警察官になったわけじゃねぇ。」


「全く、あの若造と言い、お前と言い……。なんで俺たちの世代にいなかったのか、それだけが悔やまれえるよ。もしお前たちみたいな存在がいたら、俺は……。」


「……よしてくれ。たら、れば、を言うようになっちゃ、もうおしまいだぜ。」


「……違いない。」



稲取は、高橋を責め立てることなく、また高橋も稲取の質問に黙秘することなく、淡々と会話を続けた。

まるで、事件現場に向かうときの、バディの会話のように。



そして……。



「……なんだ、これは……。」



警視庁に到着した稲取の車。

しかし稲取が目にしたのは、普段とは違う様子の警視庁であった。



「なんでシャッターが全部下りてるんだ? 駐車場にも入れねぇ……。」



警視庁では、内部で何か事件があったり、収容中の犯人の暴動などがあったときのために、完全にシャッターを下ろし、外とのつながりを遮断することで逃走を防ぐようになっている。


そのシステムが、まさに稲取が帰ってきたときには作動していたのだ。



中で何が起こってるっていうんだ……?


稲取はスマホで留守を任せている捜査一課の刑事に連絡を取ろうと試みる。



「お客様のおかけになった番号は、電波の……」


「おいおい、警視庁内で電波が通ってないわけがないだろうよ!」



ちっ……と舌打ちし、稲取が言う。

その傍らにいた高橋が、小さな笑みを浮かべた。



「俺が囮になったのは、お前たち警視庁の主力を外へ釣り出すためだ。ついに、我が『神の国』の粛清の最終局面を迎えたんだ……。」



その言葉は誰に向けられたものでもなく、しかしその場にいた刑事たちの耳に、重く響くのであった……。

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