10-8
捜査は難航した。
アジトがあるのか、何者かが内通しているのか、殺人犯の足取りは全く追えなかった。
これまでの事件の流れから、撲殺の犯人はアサシンであるという見方が強まっている。
しかし、その足取りが全く追えないのだ。
そしてもう一方、射殺の犯人も全く足取りが追えない。
小島元警視正殺害のときと同じ口径のライフルを使っていること、そしてその口径のライフルは、恐らく香川・Fを殺害したものと同口径であることから、犯人は狙撃手であると断定された。
しかし、凄腕のスナイパーである狙撃手は、現場に銃弾以外の痕跡を一切残していなかった。
「こうも手詰まりになるとは……相手も相当のやり手だね。」
特務課司令室。
メンバー達はこれまでの事件の経緯を資料にまとめ、それを眺めながら途方にくれていた。
「犯人が分かってるのに足取りが掴めない、痕跡もない。一人は顔も分かってるのに身柄があがってこない……どうなってるんだ?」
アサシンの顔は、虎太郎、北条、そしてあさみの3人が見ている。
幸運にも付近の防犯カメラに1ヶ所だけ映った彼の顔を、警視庁のデータベースで照合したが、その身柄は一切分からずじまいであった。
「迷宮入りにはしたくねぇ……大切な人を失った悲しみは、コイツら全員逮捕したって消えねぇ……。」
虎太郎が静かな怒りを燃やす。
彼自身、婚約者を殺害されているのだ。
このまま迷宮入りさせたくないと言う気持ちは、誰よりも持っている。
一同がこれからの捜査方針を模索している、まさにその時であった。
「失礼するよ。」
ひとりの初老の警察官が、特務課司令室に入ってきた。
「た、高橋警視監!」
それは、かつての北条の同僚であり師。
捜査一課の火の玉刑事と名を馳せた、高橋であった。
「高橋さん、どうしてここへ?」
北条は、高橋が小島邸にも駆けつけてきていたことを思い出した。
「今回の事件、高橋さんとも関係があるんですか?」
「いいや、俺の身内はリストアップされてない。」
「じゃぁ、犯人になにか……?」
最近になって姿を現し始めた高橋の真意を問おうと、北条が訊ねる。
「北条よ……事件で悲しい思いをしてる人のために、俺達警察官が出来ることって、何だ?」
「それは……犯人逮捕です。」
「そうだよなぁ? 俺は、『神の国』だかなんだか知らねぇが、この東京で好き勝手に犯罪を犯し、見つからねぇのをいいことにやりたい放題やっているのが気に食わねぇんだ! いつまでも上の階で資料ばかり見てられねぇ。俺も捜査するぜ!」
功績を称えられ、昇進した捜査一課の伝説。
しかしその刑事魂は、今なお燃え続けていたのであった。
「高橋さんが協力してくれるなんて心強い。是非ともお願いしたいですよ。」
思わぬ援軍に、北条も心強さを感じていた。
「火の玉刑事が協力してくれるなら、百人力だねぇ。」
「よせやい、今となってはもう執務室暮らしだよ。」
久し振りの協力に、北条も、そして高橋のことを知る刑事……辰川と司も思った。
今回の『神の国』の連続事件も、高橋が協力してくれるならきっと解決できる、と。
それほどまでに、高橋という刑事は絶対的な捜査能力とカリスマ性を持ち合わせていたのだ。
「若いの、お前達も宜しく頼むぜ。」
高橋は絵顔を浮かべたまま、虎太郎、あさみ、悠真、志乃に挨拶をする。
「……っす。」
「よろしくー」
「こちらこそ、お願いします。捜査一課の伝説の刑事が協力してくださるなんて、心強いですわ。」
虎太郎、悠真、志乃が緊張した面持ちで返事をするなか……
「……よろしく。私は過去の評判なんて参考にしない。この組織は実力主義、なんでしょう? 貴方が有能かどうかは、これから見定めさせてもらうわ。」
あさみだけは高橋に歩みより、握手を求めるように右手を差し出した。
「これは手厳しいねぇ。ちゃんと認めてもらえるように頑張るさ。」
高橋は迷うこと無く、あさみが差し出した手を固く握る。
「……さすがは伝説の刑事、大分修羅場を潜り抜けてきているみたいね少しは頼れそうじゃない。」
「そりゃどうも。しかしネェチャンもさすがだな。若くて可愛いのに、敵に回したら危なそうだ。」
「褒め言葉として受け取っておくわ。」
あさみが、真剣な表情で高橋を見る。
その様子を、虎太郎が不思議そうに見ていた。
(アイツ、なんであんなに積極的に挨拶してるんだ?)
同じ特務課のメンバー相手でも、握手を求めるということは無かった。
それだけ、高橋という刑事の捜査能力に興味かあるということなのだろうか?
「北条さん、ちょっと。」
そして、あさみが北条を呼ぶ。
「ん?」
北条は呼ばれるままにあさみについて行く。
(なに考えてるんだ? アイツ……。)
その行動が不可解すぎて、虎太郎は首を傾げた。
「さて、挨拶も終わったことだし、そろそろ捜査に戻ろうか。」
高橋が全員に声をかける。
「え? 今から?」
「勿論だ。事件現場っていうのは、時間が経てば経つほど証拠を消していくんだ。現場100回。いかに文明が発達したところで、刑事の捜査の基本は変わらんよ。」
そう言ったところで、高橋は司令室を飛び出していった……。
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