10-7
虎太郎と北条、そしてあさみと辰川がそれぞれ組んで殺害現場へと向かう。
「こっちは……ひでぇな。散々殴られた上に首を絞められて殺されてる。たぶん、アサシンって奴の仕業だな……。」
20代の若者が、苦悶の表情を浮かべたまま息絶えていた。
武器などを使った形跡は一切無く、その傷のほとんどは殴られたときに良く現れる打撲痕ばかりであった。
その顔は腫れ上がり、身体中アザだらけになっている。
「酷いね……散々殴られて、死の恐怖を感じさせてから、ベルトのようなもので首を絞められている……。明確な殺意がある上に、明らかに彼を殺すことを楽しんでる。」
シンプルな殺人事件だが、殴る、蹴るを延々と続けるというその行為ほど残酷なものはない。
抵抗が出来なくなるほど殴る、それはすなわち逃げたい、生きたいという希望を打ち砕き、死を覚悟させるということになるからである。
「勝ち目のねぇ相手に、しかも逃げることも出来ねぇ相手に殺されるのを待つのみって……酷すぎるな……。許せねぇ……!」
一度対峙したことのある虎太郎は、アサシンという男の異常性を感じていた。
「小島の家の襲撃のときに思ったけどさ、アイツ、人を殺すこと、痛め付けることに何の躊躇いもねぇんだわ。目が、完全にイッちまってる。」
それは、手を合わせてみないと分からない、常人では感じることの出来ない違和感。
「次にヤツが現れたら……俺達もなりふり構ってはいられねぇぞ……!」
「うん、そうだね。いつでも万全の準備と心構えをしておこう。」
そして……。
「こっちはきっと狙撃手の仕業ね。今回もキレイに眉間のど真ん中を撃ち抜いてる。即死だね。……どれだけ訓練を積めば、こんなに正確に人を撃てるのよ……。」
一方のあさみと辰川が向かった殺害現場。
こちらは30代のスーツ姿の男が遺体で見つかった。
死因は眉間に受けた銃弾1発。
外傷や薬物等による中毒症状は一切認められなかった。
「そっちのご遺体と比べたら、苦しむ時間は少ない……ゼロだったかもしれないけど……。」
恐らく、仕事の帰りに撃たれたのであろう。
仕事用の鞄と、恐らく家族に買ったであろう洋菓子店の小箱が男の傍らに落ちていた。
「過去に事件を起こした奴なんだろうが……こんなにあっさりと人生の幕を下ろされるって言うのも、何だかやるせねぇよな……。」
あさみの隣で、辰川が小さく手を合わせる。
「殺すのはどうかと思うけど……過去の事件でも同じように心に傷を負った人がたくさんいる。それをしっかりと償って欲しかったな……。」
あさみは、寂しそうに足下に横たわる男性を見つめた。
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