10-6
一通りの保護が終わり、特務課のメンバー達は司令室に戻ってきていた。
「ほとんどの被害者候補……小島警視正のリストに載っていた人物は保護できた。でも……。」
小島のリストに載っていた人物のほとんどに声をかけることに成功した警察側。
しかし、警察側としてはそれで手詰まりだった。
「……そうなんだよね。立件も起訴もされていない、揉み消された事件の加害者たち。任意で一度警察に匿っても、逮捕できる訳じゃないからすぐに解放しなければならない。こちらとしては、出来るだけ強くお願いするくらいしか方法はないんだよね……。」
長年逃げ続けてきた犯人であれば、逮捕することで外部からの危険からは身を守ることが出来る。
しかし、今回のケースの場合、対象は確かに犯罪行為を行っているものの、その犯罪が『無かったこと』にされている。
つまり、彼らは『一般人』なのだ。
一般人を警察がいつまでも拘束しておくことは出来ない。
故に、警察が行った対応は、
『過去の事件を知っていることを明確に本人に伝え、その事件がもとで恨みを買っていることを告げ、出来るだけ身を隠すように強くお願いをする』
それだけだった。
「一応、それぞれの携帯の番号、家族の連絡先全部聞いたけど……。」
「えぇ。強制ではなくお願いだから、全員が聞いてくれるかどうか……。」
解放する際、刑事たちは皆、同じことをリストの人達に告げた。
「自分達が見つからなくても、家族が危険にさらされる場合もある。出来れば家族の方にも今の住まいとは別の場所に隠れてもらうように伝えて欲しい。」
……と。
「でもよ……正直、イラッとしちまったぜ。俺達がこれだけ必死に頼んでるのにさ、ある男はこんなことを言ったんだ。『あの程度の事件で、何で命まで狙われなければならないんだ』ってさ……。」
虎太郎が、不満そうに言う。
メンバーたちも、同じようなことを言われていたようで、小さく頷く。
「大きい、小さいは関係ねぇ。犯罪は犯罪だ。それをちゃんと自覚してない奴が多すぎる。軽い事件だろうと、傷つく人は必ずいる。反省こそすれ、不貞腐れるのは違うだろ。」
「それはあたしも思った! もう時効だろ!……とか都合の良いこと言う奴が多すぎるよ。お前がしてきたことに対する反省はないのかっつーの!」
虎太郎とあさみが怒りを露にする。
「まぁまぁ、気持ちは良く分かる。でもそれが現代日本の若者の認識なんだよ。」
辰川がふたりをなだめながらも、小さな溜め息を吐いた。
「どちらにしても、一度保護したからと言って解決じゃねぇ。腐った奴でも護衛対象だからな。」
辰川は、全員を諭すように、そう言った。
各課で連携を取り、リストアップされた護衛対象の家の周りのパトロールの強化をすることになった、今回の騒動。
ほとんどの対象者とその家族は住居を移したり、仮住まいのホテルに宿泊したりと、警察の指示に従った。
身の危険、命の危険が迫っているのだ。なりふり構ってはいられないのであろう。
しかし……。
「新宿区内で殺人事件発生! 被害者は……」
警察の指示を無視し、自分は大丈夫だろうと鷹をくくっていた者達は、次々と犠牲になっていった。
「あれだけ命の危険だって言ってたのに、何で遊び歩くんだよ……!」
被害者は5人。
皆、悠々自適な生活を送っており、今回1度は保護することに成功したものの、警察の指示を無視し、さらに過去の罪に対しての反省など欠片も見られない者達であった。
「天罰覿面……そう言う奴もいるけどよ……。」
そのうちのふたりは、虎太郎が自ら取り調べをし、注意喚起をした者達。
やるせなさを強く感じずにはいられなかった。
「リストアップされた人達には、毎日経過報告をしてもらうようにしよう。これは各課に応援要請するよ。僕たちは、殺された人達の現場検証にまわろう。少しでも手がかりが欲しい。」
「私が各課との連携を取るわ。北条さん、虎太郎くん、あと、あさみと辰川さんも捜査にまわってくれる?」
即座に北条と司が動く。
「はいよ!」
「了解!」
「オッケー!」
「……はいよ。」
4人はそれぞれ返事をすると、夜の街に出ていった。
「志乃さんと悠真くんは細かいデータ収集を。殺害に使われた手段、被害者のその日の行動、付近の防犯カメラのチェック……仕事は大きさいけど、お願い。」
「了解しました。」
「うへぇ、すごい仕事量……。でも、これで手がかり見つけたらカッコいいよね!」
続いて司令室内の志乃、悠真にも指示を出す。
「どんなに細かいことても構わない。気になった点があればいつでも無線を飛ばしてちょうだい!」
捜査において、小さな気付きを『気のせい』ととらえるか『手がかり』ととらえるかで、局面は大きく変わってくる。
決まって後者が事件解決の鍵となる。
故に、司は『気付き』を重要視しているのだ。
「それにしてもさ……。」
「ん?」
不意に、悠真がなにか違和感を感じたようであった。
「犯人って、このリスト……持ってないはずだよね? どうしてこんなにホイホイ居場所を見つけて殺せるのかな~って。」
それは、素朴な疑問であった。
確かに、リストは小島元警視正が持っていたが、それは警視庁内で解析され、リストアップされたはず。
「警視庁内にスパイがいるってこと……?」
各課に応援要請をしたばかりの司。
その背筋に、冷たいものが走った。
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