10-5

結局、アサシンは住宅地の地の利を利用して完全に逃げきった。

結果的に、小島の命を守ることはできたが、いろいろと問題の残る結果となってしまった。



「全く……黒幕と狙撃手だけでも苦労してるのに、新メンバーの登場かよ……。」



虎太郎が深いため息を吐く。

格闘が必要となった事件で、虎太郎は例外なく活躍してきた。

しかし、今回の相手はたちが悪い。

しかも、相当の訓練を積んでいる。



(あんなプロがゴロゴロいるのか、『神の国』は……。)



組織の全容を知らない警察側。

メンバーの可能性を考えると、憂鬱な気持ちにならざるを得なかった。



「さぁ、帰って犯人の洗い出しだ。他のターゲットの安否確認もしなくちゃならないしね。」


北条も虎太郎と同じ気持ちではあったが、すぐに気持ちを切り替える。

今回の事件だけにずっと付いてはいられない。

この事件はまだ、終わっていないのだ。



「とりあえず……みんなと合流しようか。」


「……そうね。」



そして、あさみも先ほどまで格闘していた相手のことが気になっていた。


(私がいた部隊とは別……本格的な特殊部隊って、世界探してもそんなにないんだけど……。)


部隊経験の長いあさみ。

彼女が在籍していた部隊は、格闘から諜報活動まで、様々な分野の訓練を厳しく行っていた。

各技能をいかに素早く習得し、そしていかに早く実践で生かせるか。

それが、隊員たちの使命でもあったからだ。


こと格闘において、あさみは最年少ながら部隊屈指の実力者であった。

部隊内でも、あさみに勝てるものは限られていたので、その隊員の顔を、あさみは忘れたことはない。



その顔のなかに、アサシンはなかった。


(あれほどの格闘訓練を受けていた組織、か……悠真にでも調べて貰おうかな。)



いつまでも悩んでいても仕方がない。

あさみは悠真に調査を依頼することにした。



「おう、無事か?」



応援組と合流した北条たち。

稲取がいちばん最初に声をかける。



「……あぁ、僕たちは、とりあえず……ね。」



北条が心配そうな表情で、家の中を見る。

そこには、保護された小島一家の姿が見えた。



「私はもう……何を信じていきれば良いの……。」


虚ろな目で呟くように言う、小島の妻。

その隣で項垂れて歩く、小島。



「……無理もねぇよ。自分の旦那が過去に犯罪を……しかも女としては許せないだろう卑劣な暴行の犯人だったんだ。もしかしたら、この家族はもう終わりかも知れねぇな……。」



北条の言いたいことを察し、代わりに口にする虎太郎。


今回の事件は、被害者こそ出なかったものの、後味の悪さだけが残された事件であった。

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