第10話:黒幕
「……で、このヘリに乗っている男が、司令の元カレに似てるってことだな?」
舞台は現代・警視庁特務課司令室に戻る。
「ちょっとあんた、失礼よ!」
「そうですよ、もう少し気を遣って……!」
あさみと志乃が小太郎を睨む。
「……いいのよ。もう8年も前の話だわ。」
そんなふたりに、司は優しく微笑みかける。
「彼はまだ若手だったけれど、優秀な捜査官だったわ。出会いは警察学校。私と彼はライバルだった……。」
昔を懐かしむように離す、司。
「彼が首席で、私が次席。そのまま刑事になって、二人でよく話をしたわ。いつかはこの日本を犯罪から守る、立派な警官になろうって。そんな話をするようになってから、私たちは少しずつ、心を許し合っていった……。」
「司令が次席かよ!……とんでもねぇ人だったんだな……。」
「あんたの成績はどうなのよ?」
「……喧嘩だけなら、首席……。」
「……ださ。」
虎太郎とあさみが睨み合う。
「……だから、有り得ないのよ。彼が『神の国』のヘリに乗っていると言うことが……。」
愛する人を信じたい、そんな司の想い。
「それに関しては、僕も同感かな。あれだけ正義感の強かった灰島くんが、こんな酷いことばかりする組織の幹部であると言うことは、有り得ない……。」
そして北条も。
短い間ではあったがコンビを組んだ相棒を信じたい気持ちがそこにはあった。
「でもよ……、出なかったんだろ?その灰島って若造は。」
辰川が、出来る限り言葉を選んで司と北条に問う。
「えぇ……遺体は出てこなかった。でも、犠牲者の中には遺体の損壊の酷い方もいた。ビルの爆発、倒壊の渦中にいた彼が、五体満足の状態で見つかる可能性は……限りなく低いと思うの。」
締め付けられるような胸の痛みに耐えながら、司が言う。
「じゃぁさ、爆弾犯の家族を撃った奴じゃね?」
「……うん、それはたぶん今の『狙撃手』だと思う。何となくだけど。」
当時の事件記録を何度も読み返したが、鬼神会の構成員の中に、竹中の家族を始末するよう指示をされた人物は存在しなかった。
当時の犯人グループの6人以外、全員のアリバイが証明されたのだ。
「もしかしたら、当時の小島警視正が仕向けたヒットマンなのかも知れないけど……、だとしたらもっと不思議だ。灰島くんにとって、小島警視正は妹の敵のひとり。そんな人が使っていたスナイパーを、灰島は使うかねぇ。きっと、プライドにかけてそれはないんだと思うよ。」
灰島のことを知っていれば知っているほど、『神の国』との関係が導き出せない。
「ずっと考えてても埒があかない。ここからはもっと慎重に調べることにしよう。8年前の事件を踏まえた上で、ね。」
『神の国』を組織して犯罪行為を行っている者達。
その黒幕が灰島だとしたら、腑に落ちない点がいくつもある。
なぜ、生きていることを司にも、そして北条にも知らせなかったのか。
灰島が仮に生き延びたとして、どのような経緯で警察に恨みを持つようになったのか。
最終的な、灰島の目的は何なのか。
これは、灰島が生きていて、なおかつ警察に恨みを抱いていると言うこと前提での疑問である。
「これほどまでに、たくさんの人たちを巻き込んで、殺していく……、正直、こんな『馬鹿げたこと』を安易に選択する男じゃないんだよ。ここまで彼を狂気に駆り立てたものって、何だったんだろう……。」
灰島の人となりを知っていればいるほど、これまでの一連の事件を起こしたとは考えにくくなる。
北条と司は頭を抱える。
「……じゃぁ、俺達が中心になって捜査した方が良さそうだな。」
そのとき、声をあげたのは虎太郎だった。
「……虎?」
「司令も北条さんも、きっとその灰島って奴のことを知りすぎてるんだよ。だから判断が鈍る。コイツはしないはず……そう思う。それって、犯人の家族と同じ考えだろ?だから、俺達に任せてみろよ。」
虎太郎の考えに、あさみと志乃も頷く。
「それもそうね。私たちなら私情に左右されない判断が可能だわ。だって……知らないもの、その人のこと。」
「そうですね……。黒幕ではないと言うことに越したことはないですが、慎重に捜査・分析しましょう。それで灰島さんが黒幕でなければ、それで良いじゃないですか。」
司と北条は、虎太郎とあさみ、志乃の言葉に難しい顔をする。
「……まぁ、任せてみようや。特務課はあんたら2人の部署じゃないんだ。仲間を信じて、正しい答えを見つけようぜ。」
そして、辰川が二人を諭すように言う。
「……わかりました。」
「でも、僕たちも捜査に参加するよ。真実を知りたいのは、君たちと同じだからね。」
こうして、画像に映った人物についての捜査を、特務課全員で行うことにした。
「……入電です。」
そんなときだった。
「台東区の廃ビルで、男性の遺体を発見!身元特定中だそうです。死因は頭部に受けた銃弾。即死とのこと!」
新たな事件の始まりを告げる入電が司令室に入るのであった。
「頭部に銃弾……!?」
「もしかして、狙撃手の……?」
「急ごう!」
メンバー達は、台東区の廃ビルへと急いだ。
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