9-4
「……あんたにゃ負けたよ。」
灰島の心配とは裏腹に、根比べに負けたのは太田の方であった。
「あんたになら、俺達の命を預けても良いかもしれない。」
「光栄だけど……それじゃ君達は組を裏切ることになるんじゃないかい?」
極道組織が自分の組を裏切ると言うこと。
それは、『命を捨てた』と解釈すべきことである。
足を洗うにしても、必ず幹部に『筋を通す』のが極道の常識。
裏切るなど、極道のなかでは有り得ないことなのだ。
「どのみち捨て駒にされてるんだ。このままでも俺達の未来はねぇさ。だったらあんたに乗っかって行き永らえる道を選ぶ。」
「……でも、君達がみんな麻薬の密売に一枚噛んでいたのは間違いない。僕の話しに乗ったところで、全員逮捕は免れないよ?それは、警察官として当然のことだ。」
「それでも良い……。逮捕されて勾留された方が、まだ安全だ……。解放されて逃げたところで、もう俺達に逃げ道はない。きっと鬼神会に追われて、消される……。」
東日本最大の極道組織、鬼神会。
ゆえに、組織としての面子には特に厳しい。
裏切りなど、絶対に許されはしないだろう。
いま、このビルに残されている8人に残された道、それは失敗し組織としての格に傷をつけてしまった、そのケジメをつけることだけなのだ。
「……分かったよ。じゃぁ、協力してもらおうかな。」
北条は、まずはこのビルを脱出することが先決だと、8人そして灰島を近くに集める。
(まずほ、ハンドサインを決めよう。簡単かつすぐに分かるやつ。)
思ったことをスラスラと自分の手帳に書き込んで皆に見せる北条。
「おいおい、何で急に……」
「……しっ!」
その行動に疑問を感じた太田が口を開いたが、すぐさま灰島がそれを制した。
きっと、北条のこの行動には理由がある。そう感じたのだ。
(盗聴されてるよ)
「……!!」
一同の動きが止まる。
(盗聴……?いったいどこから……?)
警察関係者に黒幕がいるとすれば、盗聴されているのは、北条か灰島。
つまり、ふたりはこのビルの内情を探るために誘導されたことになる。
(僕と灰島くんは、この中にいた8人の同行を確認するために、このビル内に入るよう仕向けられた、そう言うことになるね。)
北条は手帳に自分の推理を書き込みながら、久しぶりに背筋に冷たいものを感じた。
(そこまで予見できる人間が、この警視庁内にいる。それが僕にとってはいちばんの驚きだよ。この事件が終わったら、探しておかないとね……。)
ある警察官による、大きな陰謀。
北条はそれをこの時点で予感したのであった。
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