8-2

都庁周辺も、先日の事件の後片付けが行われていた。


ロータリーでの格闘・香川の狙撃に関しては特に大きな器物の損壊などは無かったのだが、都庁内にいた人たちの避難、そしてバス内の人質の避難の際の混乱で、数ヶ所荒れてしまった場所があった。



そして……。



「ここのところ、何よりも被害を被ったのは、都知事だよね。恐ろしい事件が立て続けに起こる。東京の治安の面で思い切り叩かれてる状態。決して警察が手を抜いているわけではないんだけど、それでも知事には申し訳ない気持ちはあるよね~」



今では『神の国』関連の事件は、全国ニュースで取り上げられ、報道番組では特集を組まれるほどであった。

SNSでは、『神の国』を支持する者も現れ始め、警察の捜査の失点を追及し、今の国のあり方に疑問を呈する者も現れたほどである。



「こっちが後手に回っている間に、世論が少しずつ傾き始めた……。今は知事に迷惑がかかっている状態だけど、これ……国の大問題になるのは時間の問題、だよね……。僕たちには、少しも時間の猶予はないってことさ。」



テレビ番組を見ながら、北条が険しい表情を見せる。


「おーい、爆弾の分析、終わったぞ!」


そんな、何とも言えない司令室の雰囲気を壊したのは、辰川だった。



「あぁ、辰さんおかえり。」


「で、どうだったの?」



北条とあさみが、辰川の答えを待つ。



「爆弾自体はそれほど難しくねぇ造りだった。まぁ、ちょっと爆弾についてかじっていれば作れないこともない、そんな代物だ。薬品も……まぁ、闇ルートなら手に入らない代物でもないからな。問題は、爆弾じゃねぇんだ。」


「爆弾じゃ……ない?」


「あぁ。香川の奴が爆弾の装着に使った、このベストだよ。」



辰川は、爆弾の部分がきれいに取り外されたベストを、司令室中央のテーブルに置く。



「なんだよ、ただのベストじゃねぇか。」


「うん……ただのベスト、よね……。」



ベストを覗き込み、首を傾げる虎太郎とあさみ。



「……これ……。」


「うん……。」



メンバーの中で、このベストに反応したのは北条と司だけだった。



「……あぁ。このベスト、お前たちは警察官だから見慣れてる。だから、『ただのベスト』だと思ったかもしれないが……このベストは『警察のもの』なんだよ。しかも、現在支給されているものじゃない。」



「それって、どういうこと?」


「つまり、『今では手に入らない』ベストなんだよ。」



辰川の言葉に、メンバーたちは顔を見合わせる。



「つまりだ。このベスト、爆弾と一緒に香川に渡されたか、香川が作った奴に渡したかは分からねぇが……、どちらにしても、アイツ1人では調達できない代物なんだ。」


「香川くんは、警察関係者ないしは、警察関係者『だった』人物との接触があったと言う事だね……。」



北条は、じっとそのベストを見つめた。



「ってことは、警察の古株とか、そういった奴らが神の国に手を貸しているってことか?」


「うーん、そこなんだよねぇ……。」



虎太郎の疑問に、北条が悩むような仕草を見せる。



「そもそも、『神の国』という団体が、そもそも全員犯罪者なのか、それが疑問でね……。」


「なに言ってるんだ、これまでの事件、神の国が絡んでるじゃねぇか。」


「そう……それがそもそもミスリードのような気がして、ねぇ……。」



北条が、自身の手帳を開き、過去の事件の事を記したページを見る。



「犯行前に送られてきた荷物についていた『蠍のマーク』。これが、神の国という団体のシンボルになっているのは確認したよ。彼らのなかで、蠍というのは神の使いだそうだよ。背くものには苦痛と死を与える存在……とか。」


「なにそれ、邪教じゃない?」


「まぁ、それはさておきだよ。僕らはそのマークがあることで、『神の国』という組織が関与していると思い込んだ。そして神の国のサイト。ここでも団体の名前が堂々と出されていた。僕たちは疑いもせず神の国関連だと捜査をした。」


「まぁ、普通はそうだろ。」


「でもさ……実は『それだけ』なんだよ。」



北条が、スマホの画像をメンバーに見せる。



「マークはあります、名前は騙ってます……でも、それが『神の国』所属の誰が出したか、誰が配信したか……それは全く分からないんだよね。」


「あ……」


「……確かに。」



メンバーの顔色が変わる。



「僕の中では、『神の国』という団体は、2つの顔を持つ団体で、表と裏の団体それぞれに幹部がいる、そう思ってるんだ。」


「2つの団体が、共同活動しているってこと?」 


謎はますます深まっている。



「これはあくまで僕の予想。断言はしないけど……。」



北条が、ホワイトボードに大きな三角形を描く。



「このピラミッドの下層が、表の顔。宗教じみた活動で、純粋に神の信仰をしている。これまでの事件とは全く関与していない団体。」


次に、三角形の上の部分に色をつける。



「この部分、これが表の顔の幹部。教祖さんとか言われてる幹部の事だね。教壇の運営は、この部分までの人たちでされている。」



最後に、三角形の頂点の部分を、黒いペンで塗りつぶす北条。



「事件に関与しているのは、きっとこの部分。裏の幹部たちを中心に、数々の犯罪を行ったり斡旋したりしている。この表の『神の国』という組織を隠れ蓑にし、資金源にしてね。だから、裏の幹部の1人は、表の顔の幹部も兼任して橋渡しをしている。」


一同が息を呑む。



「まぁ……僕の予想、だけどね。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る