第8話:東京の最も長い1日

香川のバスジャック事件は、警視庁内にも大きな波紋を残した。


現職刑事の、そして捜査一課の人間の起こしたバスジャック事件。

しかも、人質となったのは東京の議員や会社社長ばかり。

さらに、犯罪者の釈放という交換条件を、形ばかりであろうとも呑んだこと。

警視庁としては、その責任が追及された。



「何らかの形で責任を取らなければならないだろう。」



警視総監の判断により、この言葉の後即日のうちに記者会見が行われた。



「この度の……いや、これまでの凶悪事件をこれまで完全に解決できていないのは、一重に我々警察の不甲斐なさ。集団自殺事件、バスジャック事件、少し遡って銀行占拠事件……。それぞれの事件の犯人を逮捕できていないのも、事件解決のためとは言え、一度でも拘留中の犯人を外に出したこと……、許されることではありません。」



「そんな……、それは相手の方が上手だっただけ……」


「……仕方ないよ。犯人を逮捕できない警察なんて、追及されて当然なんだ。」



司令室内では、モニターの画像を食い入るように見つめる特務課員の姿があった。



「それもそうだけど、僕がいちばん解せないのは……。」



その中の1人、北条が真剣な表情で画面を見る。



「つきましては、私……警視監・高橋はこの一連の失態の責任を取り、辞職をする次第でございます。しかし……誤解はしないでいただきたい。この一連の事件は、私の辞職をもって敗北というわけではない。必ず……私に続く将来有望な警察官たちが、皆さんが安心できる世の中を取り戻すことを約束致します!」



そう、警視庁の判断は、警視監である高橋の『首』を世間に差し出したのだ。

警視庁の失態の責任として。



「炎の刑事、現在の警視庁のカリスマと言っていい彼の辞職……これ以上ない責任の取り方だよね……。」



ちっ……と舌打ちをしながら、北条がこの高橋の辞職が意味することを説明する。



「高橋のオッサンに全てを被せて、警察の責任問題は一応の決着を見せる。これ以上ないスケープゴートだよ。でも、オッサンはただでは転ばなかった。僕たちに、確かにバトンを渡してくれたよ……。」



そう、高橋はただ『責任を取って辞職します』では終わらなかった。

今後の警察に、自分の悔しさを、そして事件の解決を託したのだ。



「そう。みんなが安心して暮らせる日々を取り戻すまで、僕たちの戦いは終わらないんだ。……気を緩めずに捜査しよう。『神の国』……あの組織を操っている人物を、必ず見つけ出す……!」

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