7-15
悪夢のようなバスジャック事件から、1週間後……。
「……結局、みんなここに来るんだねぇ」
「まぁ、報告がてら、な。」
稲取、そして特務課メンバーは香川の墓に来ていた。
「無縁仏にならなくて良かった。お袋さんの墓には、昔……香川に連れてこられた事があってな。少し早すぎはしたが……同じ墓に入れてやれて、良かった。」
他に身寄りの無かった香川の葬儀は、稲取が喪主として執り行った。
稲取は、終始涙を見せることなく、堂々と香川を見送った。
「葬儀での稲取くんの姿、まるで本物のお父さんみたいだったよ。」
北条が、稲取の肩を叩く。
「そうか……親より先に逝くバカ息子の葬儀だったからな、涙なんか出なかったんだろう。」
北条の言葉に、少し照れ臭そうに稲取が言う。
「……さて、僕たちはそろそろお暇しようか。あまり長々と居座ってたら、『親子の会話』の時間が減っちゃうからね。」
花を手向け、一人ひとりが手を合わせて香川を偲ぶと、北条が声をかける。
「あぁ、そうだな。……テメェは最初から最後までムカつく奴だったが、刑事としては見習うべきところもあった……と、思うぜ。」
最後に虎太郎が香川の墓に声をかけ、背を向ける。
「……ふたりに、なっちまったな。」
そして、墓前には稲取1人が残された。
「なぁ、香川よ……。これは、現実なんだよな?お前、本当にこの下で……眠ってるんだよな……。」
稲取が、その場に座り込み、手にしていたコンビニ袋から、ワンカップの酒を2つ出す。
「ほら、お前の分だ。」
2つとも栓を開けると、稲取はそのうち1本を一気に飲み干した。
「馬鹿野郎……俺は、こんな風にお前と飲みたかったわけじゃねぇ。俺は、お前と……。」
葬儀の時からずっと気丈に振る舞ってきた稲取。
ずっと我慢してきた、その気持ちの糸が切れる。
「うっ……俺は……お前と『親子として』差し向かいで飲みたかったんだ……。こんな形で……」
止めどなく涙が溢れてくる。
「……ちくしょう!」
やり場のない怒り、そして『息子』を喪った悲しみが、一気に込み上げる。
稲取はそのまま数分、香川の墓前で泣いた。
「……今はしっかりと泣いておくといいよ。これからはきっと、立ち止まることは許されなくなってくるはずだから……。」
北条が去り際に振り返る。
稲取の涙。
その姿は北条の心の中に新たな炎を燃やした。
必ず、『神の国』の組織の謎を解明し、犯人逮捕に全力を尽くす。
そんな、決意の炎を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます