7-10

「……なるほど、了解。」



司と高橋の会見から数分後。

北条は司からの連絡を受け、これからの方針を考えていた。



「高橋のオッサンが力になってくれるなら心強いね。作戦、一歩前進かな。」


「高橋って……まさか警視監のことか!?」



北条の呟きを聞いた稲取が目を丸くする。



「うん、僕の師匠。言ってなかったっけ?」


「聞いたこともねぇよ!……全くあんたは、どんだけの刑事なんだよ……!」



警視監に育てられた、元捜査一課の伝説。

稲取はそんな人間が身近にいることに戸惑いを隠せなかった。



「まぁ、僕の素性とかオッサンとの関係とか、そんなことはどうでも良い事だよ。まずはこの事件をいかに解決するか、それが先決だよ。」


「あ、あぁ……それは分かってる。」


「稲取くん、君は香川くんとの通話を継続だ。下手に刺激はしないこと。いいね。」


「分かった。……しかし、一つ腑に落ちないことがある。なぜ香川は俺の話を聞く気がないのなら、さっさと通話を切らないんだ?」



それは、北条も気になっていた。

神の国側の交渉人としてバスに乗っているのか、それとも、何か他に意図があるのか……。


「確かに、それは僕も引っかかってたよ。直接交渉をするなら、ハイジャックの必要はない。そして、自分の命もかける必要もない。あんな真似をして、何故彼は通話を続けるのか……。」


ひとつだけ、北条には心当たりがあった。

そして、その心当たりが正しければ、きっと……。



「とにかくだ、稲取くん、君には『最後まで』通話を続けてもらいたい。司ちゃんがここに帰ってきても、この役目は必ず君が遂げるんだ。」


「え……?おたくの司令官が戻ってくるなら、この仕事は俺よりも……」


「……いいから。今回の事件、解決のカギは稲取くん、君のような気がするよ。」



北条は、真剣な表情でそう言う。

稲取は知っていた。

北条がこの表情をするとき、決して嘘や冗談は言わないということを。



「……了解。」



ただ一言、稲取は返事をする。



「志乃ちゃん、悠真くん、バスを高速に入れないように、上手いこと警察車両を誘導してくれないかい?高速に乗って遠くまで行かれると厄介だ。各県警との連携も必要になってくるからね。」


「了解しました。」


「りょうか~い。」



志乃が悠真と協力して、バスが走りうる経路を割り出していく。それと同時に志乃は各課の車両に無線を随時飛ばし、車両を動かしていく。



「すげぇな、この子……。まるで将棋でもさしているみたいだ……。」



その様子に、稲取が感嘆の溜息をもらす。



「さぁ、ここからが本番だ……。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る