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「サイトは完全に壊したよ。これで、あのサイトから悲しい被害者が出ることはないよ。」



虎太郎が集団自殺現場に到着したその頃、悠真からの無線が入った。

普段のような明るい調子はなく、遂行した任務について淡々と報告しているような、そんな声だった。



「うん……ありがとう。これから先、あのサイトからの被害者がいなくなることだけでも、前向きに捉えよう。お疲れ様。」



北条が労いの声をかける。



遺体はすべて、現着した警察・消防・救急隊により収容され、一人ずつ法医の桜川が検視を行っている。

北条と虎太郎は、それぞれ手短に、犠牲者たちの家族に近況などを聞いてまわっていた。



「やっぱり……どこのご遺族も同じだね。家族仲は良好。むしろ良いご家族ばかりだった。でも……。」


「職場や育児・環境などの国の制度に悩んでいた、と。」



次第に、これまでの通り魔事件の犯人たち、そして今回の集団自殺事件の犠牲者たちの背景が明らかになってきた。

家族関係はきわめて良好。

何でも話し合えるような、絵に描いたような幸せな家庭であった。

そんな彼らに一つだけ闇があるとしたら、それは『現在の日本に対する不満』が僅かながらでもあったこと。


ある被害者は、待機児童問題で保育園に子供をなかなか預けられず、産休・育休が超過してしまい、会社を退職せざるを得なかった。

ある事件の加害者は、生活費を稼ぐためのバイトに忙殺し、成績が下がってしまったために奨学金の制度の適用外になってしまった。

またある犠牲者は、政権争いに巻き込まれ、連日会社に賄賂を持った政治家が来たそうだ。

何度断っても、脅し文句のような言葉を浴びせられたという。



「人それぞれ、今の社会について何かしらの不満があるものだよ。中には増税して暮らしが窮屈になった、物価が上がって今の安月給ではまともな食事ができない……なんて悩みもあったみたいだ。黒幕は巧妙だよ。社会に対する小さな不満、大きな不満すべて集めたらきりがない。今後もいくらでも今回の犠牲者みたいな人が増えてしまう……。」



北条が手帳を見ながら、神妙な顔で呟く。


「きっと黒幕も、日本社会に相当な恨みがあるんだろうね……。」


「それより北条さん、これからどう動く?」


一通り話を聞き終わった虎太郎が、北条に問う。



「とりあえず……。」


ダラダラと捜査するわけにはいかない。

こうしている間にも、少しずつ黒幕の野望は動き出しているのだ。



「まずは、司令部に戻ろう。いろいろ情報を整理して、各課の応援を要請した方がよさそうだよ。」



少しずつ、明るみに出てきた謎の組織『神の国』。

彼らとの戦いは、まだ始まったばかりである。

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