4-15

一方、その頃……。



「やはり空港はみんな閉鎖ですか……。日本の警察と言うのは、どうにも根回しが早すぎて困りますね……。」



空港近くの国道に、Fはいた。

しっかりと整ったスーツ姿。

きれいに磨かれた皮靴を履き、ビジネス用の鞄と、旅行用のスーツケースを手に、空港の様子を探っていたのだ。


そして、彼の手には例のシナリオ。



「さすがですね……。銀行からの脱出は上手くいきましたが、まさかその先まで記されているとは……。」


シナリオの最後の1ページには、銀行から脱出したあとの事が記されていた。



『逃走を選んだ場合、警察は国外への逃亡を阻止するために空港には多くの捜査員が配置される。それと同時に、掲示物も増え、民間人への呼び掛けも強化される。よって国外への逃亡という選択肢は自殺行為だ。』



逃走を選んだ場合、そして自首を選んだ場合。

2つの選択肢と共に、その後の事が書いてあった。

ちなみに、自首をえらんだ場合は……。



『勾留5日目、差し入れでボールペンが届きます。芯の部分に毒物が仕込んでありますので、それを使って自害してください。貴方の活躍は日本国内に知れ渡り、国内に潜伏している同士からは神格化され、貴方の名は永遠に残るでしょう。』



「まだ、私は死ねません。まだ、なにも為し遂げていない……!」



家では邪魔者扱いされ、会社では良いように使われてきた自分にとって、神格化、名が残るなど魅力的な言葉はたくさん用いられていた。しかし……。



「ここで厄介払いされるわけにはいかない。私はこの先も、もっとこの団体のために働く。そしてこの団体の幹部の1人となるのだ……。」



ようやく見つけた地位。

ようやく見つけた役割。


Fは、自分が必要にされているということが、なにより嬉しかった。そして、必要とされているこの『蠍のマークの団体』に尽くそうと思ったのだ。



『上手く逃亡が出来たなら、そのときはこの場所に向かってください。場所は……。』


最後のページ、その裏側には住所が書かれていた。

その住所が指し示すその場所は……。



「群馬県の山中ですか……。そこに何が待っているのかは書かれていませんが、もう、私に残された選択肢は少ない……。」



指示の通りに用意されていた車に乗り込み、エンジンをかける。


用意されていた車のカーナビには、既に目的地がセットされていた。


「ここまで周到とは……。この組織のリーダーがどんな方なのか、興味が沸いてきましたよ……。」



全てを捨てたごく平凡だった男が、生きる希望を見出だした瞬間だった。



都内中心で起きた、大手銀行立てこもり事件。


死者を2人出したこの事件の首謀者は、こうして忽然と姿を消したのであった……。

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