4-14

階段を上がり、銀行のあるフロアに戻ると、そこには捜査一課の面々と、課長・稲取の事情聴取を受けている、支店長代理の姿があった。

そして、その片隅には、最初に被害に遭った男性が横たわり、鑑識が2人証拠集めをしている。



「遺体の見分なら、鑑識の報告を待てばいいのでは……?」



北条と一緒に銀行フロアにやってきた桜川が、怪訝そうに北条を見る。



「うん……それでも間違い結果が得られると思うんだけどね、僕が欲しいのは確実な結果じゃない。『素早い結果』なんだよね。ってことで、さっそく頼むよ。僕が知りたいのはただ一つ。あのご遺体と、大金庫前の遺体、『どっちが先に死んだのか』ただそれだけだよ。」


「……はぁ、分かったっス。」



北条の意図は分からない。しかし知りたいことが分かった桜川は、北条の指示に従うことにした。



「いつもお疲れさんっス。ちょっとだけご遺体、確認させてもらっても良いっスか?」


「あ、桜川先生!!お疲れ様です!!……ご遺体ですか?もちろん構いませんが……状態保持のため、薬品の使用や接触は……。」


「あ、もちろんっス。一通り見たらすぐに撤収しますから。」



桜川は鑑識とも繋がりのある有能な監察医である。

ゆえに、鑑識も素直に桜川のための場所を空ける。



「ん~~~~~~。」


頭の先から爪先まで、桜川はじっくりと遺体を見る。



「年齢は50代半ばくらい。致命傷はショットガンによる射殺っスね。そこそこの距離から胸部めがけて発射されてるみたいっス。散弾がそれぞれ銃創を作っている……。」


淡々と状況を話す桜川。



「で、問題の死亡推定時刻は……?」


北条が、真剣な眼差しで桜川を見る。



「はい、具体的な時間はよく調べてみないとわからないっスけど、死後硬直の具合、死斑の位置……これらから総合すると、金庫前の遺体よりも前に殺害されたものとみて問題ないっス。」


「やっぱりね……。」



北条は、ちっ……小さな舌打ちをすると、そのまま近くにいる稲取のところへ。



「稲取くん、どうだった?」


「あ、北条さん……どうやら一人だけ提示してもらった住所・電話番号に合わない人物を発見したようです。いま、表記されていた住所に直接刑事を送り、調査させています。」


「さすが、理解が早くて助かるよ。」


「しかし、まさか人質の中にいるとは……。」



稲取も、苦虫を潰したような表情で、北条を見る。



北条と稲取。

元・捜査一課のエースと呼ばれた二人が、同じように思い悩むさまを見て、虎太郎もただ事ではない雰囲気を感じたのであった。



そして、北条と稲取の推理は、確信に変わる。



「この人ではありません……。もっと、落ち着いた雰囲気の男性でした。紳士、と言う言葉がぴったりの……。」



それは、銀行に戻ってきた支店長代理の証言で明らかになった。



「この人は、一番最初に殺された、人質の方です。回収されたスマホの他に携帯を隠し持っていたんです。それに気づかれた若い犯人に撃たれました……。」


「ふぅん……。じゃぁ、もしかしてその犯人って言う若い人って……彼?」



北条は、大金庫前に横たわっていた遺体の写真を支店長代理に見せる。



「そ、そうです!彼が銀行で人質の方を……!」


真っ青な顔で話す支店長代理の様子に、北条はその証言に嘘がないと言うことを悟る。



「自分の推理の甘さに腹が立ってくるよ……。こういう事態も想定出来たはずなのに……。」


悔しそうな表情を浮かべる北条。



「どうしたんだ?結局こいつが犯人で決まりじゃないのか?」


「いや……本当はこの銀行内に犯人は『もう一人いた』んだよ。たぶん、殺害された人質の方は、この若い犯人に殺された。そうなるように仕向けた。そして、この若い犯人を殺したのは……『F』、僕がギリギリまで交渉していた犯人だよ。」


その場で北条の話を聞いていた一同が凍り付く。



「じゃ、じゃぁ……その『F』っていうのは、どこに行っちまったんだよ?」


「もしかして、この銀行内にまだ潜伏しているとか?」


「ううん……このビルには私は最上階から侵入したけど、ここに来るまでに人の気配はなかった。そもそも、このビルは銀行以外にテナントは入ってない。だから使われてなかった。ブレーカーだって落とされていたわ。だから私は暗視スコープを使ったんだもの……。」



虎太郎、桜川、そしてあさみが困惑する。

北条は、これで全てが繋がったと言わんばかりに、顔を上げる。



「人質の住所・年齢を全員分確認しておかなかったのは失敗だったね……氏名と連絡先だけでは偽造も出来る……。犯人は、人質に紛れて銀行から脱出し、しれっと嘘の名前と連絡先を言って逃げた。……やられたねぇ……。」


「まさか!そんなことが……。」


「うん、『そんなこと出来るはずがない』という警察の固定観念を、うまいこと逆手に取られたよ。悔しいねぇ……。鑑識で似顔絵描ける人いたよね?支店長代理の話を聞いて、全国に緊急手配をかけよう。特に空港には真っ先に。」



最悪の状況も考え、北条が指示を出す。

特務課メンバーたちも、まさかそんな手があるとは……と驚いたが、北条の指示に従い迅速に行動した。


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