3-7

爆弾の解除は特に大きな問題もなく進んでいく。

その手際の良さは、爆弾についての知識がない虎太郎も分かるほどであった。



「本当にすごいんだな、素人の俺が見てても分かるぜ。」


「まぁ、これで飯食ってたくらいだからな。引退してからは、余計な知識でしかないけどよ。」


「余計ってことは無いだろ。こうして今もこの場にいる人達への被害を抑えようとしているんだ。」


「まぁ……この場は、な……。」



『この場は』と言う言葉が、虎太郎にはどうも引っかかった。

携帯の画面に映る、10年前の事件の概要に目を通しながら、虎太郎は辰川の話を聞く。



「爆弾っていうのは、1つずつ慎重に解除しなければならない。でも、その解除をしている間に他の場所で爆弾が見つかったら、その爆弾には何も対処が出来ない。たくさんの犠牲を生む爆弾、しかし俺たち爆処理は、ひとり1つの爆弾しか対処できないんだ。理不尽だよなぁ……。」



ひとつ、またひとつ銅線が切られていく。

ひとつ、またひとつ部品が解体されていく。



「もしかして、10年前……。」


「あぁ。俺が一つの爆弾にかかりきりになっている間に、もう一つの爆弾が爆発した。それも、その時俺が解除していた爆弾よりも数倍規模がでかくてな……。その爆弾のせいで、多くの人が犠牲になった。その中には、同じ爆弾処理班の家族も居たんだ。」



台場の爆弾の解除は、あと少し。

3時間かかると予想されていた解除も、今は1時間半程度。

想定よりもはるかに早く解除できそうである。



「もし……俺が解除する爆弾の場所を見誤らなければ、盟友の家族は死ななかったし、もっと被害は少なかったかもしれない……。」



爆弾に対する知識がある者が辰川の現在の解除の手際を見れば、まさに『神懸り』であると言えるのであろう。

しかし、それでも満足できない何かが、辰川の胸の中でもやもやと動いていたのだ。



「でも、辰川さんがそっちの爆弾を解除に行っていたら、別の人たちが死んだ。別の人たちの大切な家族が死んだ。」


「虎……。」



携帯の画面を見ながら、それでも虎太郎は辰川に言った。



「同僚の家族が死んだって、それは辰川さんの所為じゃねぇ。爆弾がひとりひとつしか解除できねぇんなら、辰川さんはやるだけのことをやったんじゃねぇのか?最も、憎むべきは……。」



何となく、時間の概要が見えてきた虎太郎。



「……解除した人間じゃねぇ。爆弾を設置した、犯人だ。」


「……!!」




辰川が、虎太郎を見る。



(ふっ……、こんな若造に諭されるとはな……。)


辰川の虎太郎を見る目が、次第に変わっていくのを、辰川自身が実感していた。


「……サンキュ、相棒。」


「……おう、早く解除して次に行こうぜ。」




――――――――――――――――




「……よし、解除終了だ。」


「おぉ……予定よりも1時間早いじゃないか!」



台場・テレビ局内。

辰川はようやく大型の爆弾を解除した。

予想されていた3時間を大幅に短縮する、2時間少々。

犯人が10年前の爆弾を模したためか、辰川にはその爆弾の解除方法がしっかりと頭に入っていたのだ。



「模倣……っていうか、前回の爆弾と全く同じ。銅線の本数も、火薬の量も、発火装置も全て。完全に10年前の爆弾を模倣して造られたものだ。分かってさえいれば……簡単だ。」


「さすがだな……辰川さん。でも、さ……。」



ここで虎太郎にひとつの疑問が浮かび上がる。



「でもさ……10年前の爆弾の型って、一般に公表されたのか?」


「……え?」



虎太郎の、素朴な疑問。

しかしそれは、この事件の核心をつくものだった。



「いや……事件の概要は、爆弾の種類・型も含めて、部外秘とされていたはずだ……。」


「じゃぁ、誰が作ったんだよ……。」


「誰が……。」




この時、辰川が思い描いた犯人像。

その人物のことを想い浮かべると、背筋が凍る想いだった。



「俺は……気付かないふりをしていたのかも知れない。認めたくなくて、どこかで顔を背けていたのかも知れない。」


「辰川さん……?」



心配そうに辰川を見つめる虎太郎。

しかし、その実虎太郎にも犯人像は割り出せていた。

志乃から送られてきた、10年前の事件の概要メール。

その名前に、つい先ほど聞いたばかりの名前が出てきたのだ。



―――爆弾処理班所属、中山 祐司なかやま ゆうじの妻と子供が爆発に巻き込まれ即死。―――




「次の爆弾の大きさも規模も俺には分からない。設置されている場所も、犯人から知らされていない。しかし……。」



辰川が拳をかたく握りしめる。



「知らされていないのなら、こちらから聞き出してやろうじゃないか。『犯人』に……。」



辰川は、携帯を握りしめる。



「……了解。志乃さん、聞こえるか?緊急手配をかけて欲しい。もと爆弾処理班の中山さん、彼の所在を至急洗い出して欲しい。きっと、彼の行方が分からない限り、爆弾は際限なく設置される。」


「了解しました。すぐに配備をかけます。」



虎太郎が志乃に中山の手配を頼み、それを志乃はすぐに了解し、各所に伝達する。



「虎……すまないな。」



相棒さながらのサポートに、辰川が虎太郎に礼を言う。



「急造とはいえ、俺は今は辰川さんの相棒だからな。じゃぁ、俺は中山を探す。辰川さんは、もしどこかに爆弾が仕掛けられたら解除に向かって欲しい。」


「あぁ、了解だ。虎、もし爆弾を見つけても、くれぐれも手を出すなよ。まずは離れる。周囲の安全を確保する。それだけでいい。」


「了解!!」



シンプルな決め事を虎太郎に指示した辰川。

辰川は頷くと、飛び出すようにテレビ局から出ていった。


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