3-3
秋葉原を一通り回った後、今度は渋谷にやってきた虎太郎と辰川。
「そろそろ時間か……。」
辰川は、センター街の手ごろなカフェに入ると、
「ちょっと落ち着こうや。何でも好きなもの頼め。」
と、メニューを向かいに座った虎太郎に渡した。
「あ……ご馳走様っす。」
虎太郎がメニューを見ている間、辰川は窓の外から向かい側に見える大きなビルに目を遣る。
(もう、あれから10年も経つんだよな……。)
その横顔が、あまりにも寂しそうだったので、虎太郎はメニューを決めた後、辰川に訊ねた。
「なんか、あったんすか?この場所で……。」
ずっと向かいのビルから視線の動かない辰川。
そのまま、呟くように話し出した。
「あのビルでな、大規模な爆弾テロがあったんだ。死者30人。俺の友人も犠牲になった。爆弾は2つ。1つ目が爆発した後、警視庁に挑戦状が届いた。『東京を火の海にしてやる』ってな……。」
「それ、知ってるかも……。」
虎太郎がまだ中学生だった頃、連日ニュースを賑わせていた爆弾事件があった。
過去の記憶を呼び覚ます。
「あれ……このビルだったのか……。」
ぼんやりとだが思い出した。
30人が犠牲となった爆発。
そして、東京各地で何発もの爆弾が爆発し、東京中が恐怖に慄いた。
しかし、そんな事件も1週間で終わりを迎えた。
当時、北条が所属していた捜査一課と、爆弾処理班の連携で東京都庁の爆破を食い止め、現場近くにいた犯人を、北条が発見・逮捕したのだ。
「このビルの2発目は?」
「あぁ、俺が解除した。その残り時間で、次の爆弾の場所を指示された。早く解除すればその分時間に余裕ができ、手間取れば次の爆弾処理の時間も減る。そんなギリギリのやり取りだったな……。」
「なんだそりゃ……えげつねぇな……。」
辰川の話を実際に想像してみる。
限られた時間で解除しなければならない爆弾。
解除できなかったら、多くの人が死ぬ。
命を背負った爆弾処理。
しかも、1件ではなく、情報によると、7発だったらしい。
「とんでもねぇ修羅場……潜ってんな……。」
想像しただけで、冷や汗をかくような現場。
それを乗り越え、いま目の前にいる辰川。
(なんだよ……ものすげぇオッサンじゃねぇかよ……。)
虎太郎の辰川への印象も、少しずつ変わり始めていた。
そんな辰川が、腕時計に視線を落とす。
「12時まであと1分……。」
そう、12は事件が始まった時間。
「10年前の今日、12時にあの事件は起こったんだ……。」
「辰川さん、だからここに……。」
浅草、秋葉原、そしてここ渋谷。
それぞれ規模は違えど、かつて爆発事件のあった場所だったのだ。
「さぁ、時間だ……。」
時計が、12時を迎える……。
12:00ちょうどになった、その時だった。
――――――ドーーーン!!!――――――
「な……!?」
「え……?」
喫茶店の窓の外。
目の前のビルのちょうど上層階辺りが、突如轟音と共に吹き飛んだ。
「え?なになに?」
「火事……?」
喫茶店の客たちも、その状況に驚き窓際に集まってくる。
「うそ!爆発じゃない?」
「なんで?」
「う、うわぁぁぁ!!!」
目の前のビルの惨状を目の当たりにした客たちが、次々と大きな声を上げて慌てふためく。
「辰川さん、これって……。」
虎太郎も、現状をまだ把握しきれず、辰川の顔を見る。
「俺にも分からんよ……まずは現場に急行しよう。虎、行くぞ!!」
虎太郎と辰川は顔を見合わせると頷き、目の前のビルへと走って向かう。
その途中で、辰川は無線で司令室に呼びかける。
「辰川だ。いま渋谷センター街のビルで爆発があった。出来る限りのことを調べて送ってくれないか?俺と虎は直接現場で確認する!」
ほどなくして、司令室からの返事が返ってくる。
「志乃です。至急現状を確認します。捜査一課にも応援要請済み。念のため爆処理(爆弾処理班)にも連絡を入れておきます。所轄には近辺の交通規制、広報部には報道規制を依頼済みです。」
「悠真だよ。僕はSNSとかネットでビルのことを呟いてるものをピックアップして、使えそうな情報をまとめて送信するよ。もう、だいぶ騒いでるみたいだからね~」
志乃も悠真も、早速仕事にとりかかっていた。
「仕事……はぇぇ……。」
その無駄の無さに、思わず虎太郎が声を上げた。
「司です。辰川さん、今回の事件は日付も時間も10年前の事件と同じ。でも模倣犯かどうかはまだ分からないわ。偶然と必然、両面で対応できるようにしましょう。辰川さんなら大丈夫だと思うけれど、冷静に。」
司令である司が、辰川を諭すように言う。
「あぁ……俺はいたって冷静さ。このくらいで取り乱すほど未熟じゃないさ。だが、時間と日付、そして状況が一致したという事は、少なからずこの事件を知っている人物の仕業、という事だ。それも頭に入れて行ってみるよ。」
「えぇ。虎太郎君、今回の事件はこれまでとはまた違うジャンルの事件よ。貴方はまだ経験が少ない。辰川さんの指示に従い、無謀なことはしないこと。いいわね?」
「あ、あぁ……分かってる。」
虎太郎も、無茶をするつもりはなかった。
目の前で起きた爆発事件。
自分にはその事件を解決するためのノウハウも、もし他に爆弾があった時の対処の仕方も知らない。
今の虎太郎は、まだ無力なのだ。
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