3-2

秋葉原。


メイド喫茶、ゲームセンターなどなど。

一通り若者が立ち寄りそうな場所をパトロールした、虎太郎と辰川。

その中で虎太郎が驚いたこと、それは……。



(この人、メイドたちにも面識があるのかよ……。)



辰川の恐ろしいほどの、顔の広さであった。

どこに行っても、『辰川さん』と名前と顔を覚えられている。

違法スレスレの営業をしている飲食店の店長なども、辰川を見ては苦笑いを浮かべる始末。



(この人……どれだけ通えばこんなにみんなに顔と名前、覚えられるようになるんだよ……。)



虎太郎も、パトロールを疎かにしているわけでは無い。

しっかりとまわって、住民と話をして、そして危険が無いかを逐一チェックしているつもりだ。


それでも、虎太郎のことを名前で呼び住民は数えるほどしかいない。


そんな虎太郎からしてみれば、辰川の今の状態は『異常』なのだ。



「なぁ、辰川さん……。」


「ん?なんだい?」


「どれだけ同じとこまわったら、そんなに顔と名前を覚えられるようになるんだ?」



ひとりで考えていても仕方がない。

虎太郎は、率直に訊ねてみることにした。

すると……。



「毎日、散歩しながら住民の様子を見ているだけさ。」


そう、のらりくらりと辰川は答える。


「毎日……って、え!?」


しかし、虎太郎はその『毎日』という言葉が引っ掛かった。

本当に毎日、非番の日も通っているのではないか。

そう、思ったのだ。



「うん、毎日。たーだ散歩してるだけだけどな。」


ガハハと笑いながら歩き続ける辰川を見て、虎太郎は思った。



(毎日歩くって……散歩どころの距離じゃねぇぞ……?)



本腰を入れた『パトロール』。

警察官の基本ともいえるべきその行動を、辰川は毎日ひたむきに、手を抜くことなく繰り返してきた。

その結果、地域住民との絆も生まれ、今のような、地域住民に愛される辰川が生まれたのかも知れない。



「……なんか、辰川さん、アンタのこと誤解してたみたいだ。」



虎太郎は素直に、辰川のことを偏見混じりの目で見ていたことを詫びた。



「虎さぁ……。」


「……ん?」


「真面目、だなぁ。」



辰川は、そんな虎太郎に笑みを向ける。

正直、ここまで純粋に人のことを見て学ぶ刑事は久しぶりだった。

北条から先日、連絡があった時にこう言われた。



「きっと、虎は僕たち特務課で欠かせない存在になるよ。それは僕が保証する。」



特務課の中で、いや警視庁でも優れた刑事である北条が、虎太郎の能力を買っている。

それだけでただ者ではない、そう思っていたのだが……。



「北条がお前を可愛がるのも、分かる気がするよ。」


「え?」



虎太郎と行動を共にすることで、北条の言葉の意味を少しずつ理解し始める辰川なのであった。

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