第3話:恨みの花火

「……え?インフルエンザ?」


連続放火事件から2週間後。

その後、それほど大きな事件もなかった東京。

普段通りに出勤した虎太郎が聞かされたのは、北条がインフルエンザで休暇を取ったと言うことだった。



「えぇ。結構症状が重いみたい。身体が全く動かせないって言ってたから、完治するまでは有給を取ってもらうことにしたわ。」


司が虎太郎に状況を説明する。



「へぇ、北条さんでも病気になるんだな……。」


「私には、虎太郎くんの方が病気にならなさそうに思えるけれど?」



北条の病欠は配属されてから見たことがない虎太郎が、思っていたことを呟くと、それを聞いた志乃が言う。


「まぁ……俺はメシ思いっきり食うから、身体は強いんだろ。いや、何て言うか北条さんって、病気とかはね除けるオーラみたいなのがあるだろ?」


「あぁ……確かに。」


「事件があると何処からともなくやってきてパパっと解決!みたいなね。なんかさ、倒れてても入院してても出てきそうな?」



虎太郎、志乃、そして話に加わった悠真が顔を見合わせて笑う。

それを見ながら、司が苦笑いを浮かべた。



「まったく……北条さんのことなんだと思ってるのよ……。まぁいいわ。北条さんには完治するまで出てこないよう言ってあるから、その間のパトロールは虎太郎くんと辰川さんで組んでもらうことにするわ。」



司が、北条休暇中の方針を虎太郎と辰川に告げる。


「はいよ。ま、俺もここで遊んでるばかりじゃ給料泥棒だと思われるからな。よろしく、虎太郎くん。」


よっこらしょ、と腰をあげ立ち上がる辰川。

虎太郎は特務課に配属されてからずっと北条と組んできた。


志乃と悠真はその任務中に能力を知ったし、司とは犯人逮捕のために共闘したこともある。


しかし、この辰川と言う男の能力を、刑事としての特性を、まだ虎太郎は知らなかった。


ただのギャンブル好きなオヤジ、そう思ってさえいたのだ。



「うす……よろしくお願いします。」



とは言え、辰川は刑事としては虎太郎よりも先輩。しっかりと挨拶をする。



「じゃ司令どの、ちょっくら行ってくるぜ。」


「お願いします。また詳しい報告書、お待ちしてます。」


「あー、気が向いたらな。……さ、行くかぁ虎太郎くん!」


辰川は大きく背伸びをすると、虎太郎を手招きで呼ぶ。


「うす、よろしくお願いします。あと、俺のことは『虎太郎』か『虎』でいいっす。そっちのが呼ばれなれてるんで。」


「そっかー。じゃぁ北条に倣って『虎』でいいかな?」


「もちろんオッケーっす!」


「了解。じゃぁ虎、パトロール行くぞぉ!」



低く良く響く声で、辰川は言うと司令室を出ていく。

虎太郎も後をついていこうと歩き出すと、司が虎太郎を呼び止めた。



「……なんすか?」


「辰川さん……あの人あぁ見えて、北条さんとならび称される敏腕刑事みたいよ。近くで色々勉強してきなさい。」


「了解っす。」

(俺から見たら、ただのおっさんなんだけどなぁ……。)



腹を掻きながらのんびりと靴のかかとを引きずって歩く辰川に、司の言う『敏腕』という言葉はまるで浮かんでこなかった。




「辰川さん、で、どこからパトロールするんすか?」


「あー、どうするかな……とりあえず、浅草あたりに行ってみる?」


「浅草??」



不意に辰川の口から発せられた『浅草』という地名に、虎太郎の頭には疑問符が浮かぶ。



「なんで浅草なんすか?」


「え?……今日はなかなかいい天気だから?」


「……へ?」



なかなか上手く噛み合わない、辰川との会話。

虎太郎は頭を掻きながら、



「まぁ……今日は勉強させてもらいます。どこでもついていきますよ。」


と、今日は辰川の行動についていくことを伝える。


「おぉ、勤勉で良いねぇ。じゃぁ行くか。ま、のんびり気楽にパトロールといこうや。」



辰川は感心感心、と言うとゆっくりのんびりと虎太郎の前を歩き始めた。




―――――――




「浅草だ。」


「浅草……っすね。」



警視庁からやく20分。

タクシーで浅草までやってきた辰川と虎太郎。



「ってか、タクシーっていいんすか?ただのパトロールっすよね?」


「あぁ……でも、大切なパトロールだ。此処からしばらくは足を使って丁寧にパトロールする。」



辰川が真剣な表情で虎太郎に言う。

その表情に、虎太郎も


(おぉ……もしかして、辰川さんって現場で本気になるタイプか?)



大先輩刑事の本気を見たと思い、



「じゃぁ、ついていくんで自由に歩いてください。」


と、辰川に告げる。

辰川は、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる。



「悪いんだけどさぁ……。」


「……え?」



もしかしたら、辰川の気に入らない言葉でも口走ってしまったかと、少しだけ気まずそうな虎太郎。しかし……。



「もしかしたら、荷物を持ってもらうことになるかもしれないんだけど、それでもいい?」



その言葉が、予想外のものだったので、



「お……おう……。」



思わず普段通りの言葉で返事をしてしまった。



「悪いねぇ。もしかしたらだから、確定ではないけどね。『まわる場所』によっては、ね。」



「気にしないで良いっすよ。荷物持ちとか、それなりにトレーニングになるんで。」



きっと、どこかにある程度目星をつけた犯罪の犯人がいて、パトロールついでにと逮捕または家宅捜索でもするのだろうか?

そう思った虎太郎が辰川を見る視線が変わってくる。



(のらりくらりした感じなのに、ちゃんと刑事の本分を弁えてるんだなぁ。正直、そんなに真面目な人だとは思わなかったわ。)


完全に辰川に尊敬の念を抱いた虎太郎だった。のだが……。




「よー、おばちゃんまだ生きてたのか~」


「辰ちゃん、そんな意地悪言わないの~。そんなに私たち、歳変わらないじゃない!」


「なに?辰川さん来てるのか?」


「パトロール中でね。邪魔すると公務執行妨害で逮捕するよ~」



15分後。



(一瞬でも尊敬した、俺の気持ちを返せ……。)



両手いっぱいに買い物袋を持ち、虎太郎が大きな溜息を吐いた。

商店街に入ってから、辰川が行った『パトロール』とは、食べ歩き。

人形焼き、だんご、クレープ……。

とりあえず目についたものは一通り買って食べる。


ほとんど前に進まないまま、店主や商店街の人たちに囲まれる。


正直、虎太郎は完全にペースを乱されていた。




「まったく……見た目通りの適当オヤジじゃねぇか……。」


呆れ顔の虎太郎。

そんな虎太郎に、一通のメールが届く。



「お、北条さんからだ。」



メールを開くと、そこには……。


―――いやー迷惑をかけるねぇ。しばらく休ませてもらうよ。その間、辰川さんに虎の世話を頼んだから、まぁ勉強させてもらってよ。―――


「なーにが勉強だよ。食べ歩きしかしてねぇっての……。」



―――事件解決をするためには、地域住民の協力も必要な時がある。辰川さんは現役時代、その基盤を完璧に作り上げた刑事と言える。よーく辰川さんのことを見てごらん?僕にも虎にも足りない部分が、きっと見つかるよ―――



「俺と……北条さんにも足りない部分……?」


「おーーい、この辺は終わりだ。次は秋葉原にいくぞー。」



北条のメールに気を取られている虎太郎に、辰川が声をかける。



「お、おぅ……。」



つい素っ頓狂な声を上げてしまった虎太郎。

辰川の両手には、大量の買い物袋。

住民たちが持たせてくれたものらしい。



「これ食いながら移動しようぜ。ひとりじゃ食いきれねぇから手伝ってくれよ。」



買い物袋を差し出す辰川を見て、虎太郎は困惑する。



「……この人が、ねぇ……。」



こうして、虎太郎と辰川の『急造バディ』のパトロールが始まった。「気にしないで良いっすよ。荷物持ちとか、それなりにトレーニングになるんで。」



きっと、どこかにある程度目星をつけた犯罪の犯人がいて、パトロールついでにと逮捕または家宅捜索でもするのだろうか?

そう思った虎太郎が辰川を見る視線が変わってくる。



(のらりくらりした感じなのに、ちゃんと刑事の本分を弁えてるんだなぁ。正直、そんなに真面目な人だとは思わなかったわ。)


完全に辰川に尊敬の念を抱いた虎太郎だった。のだが……。




「よー、おばちゃんまだ生きてたのか~」


「辰ちゃん、そんな意地悪言わないの~。そんなに私たち、歳変わらないじゃない!」


「なに?辰川さん来てるのか?」


「パトロール中でね。邪魔すると公務執行妨害で逮捕するよ~」



15分後。



(一瞬でも尊敬した、俺の気持ちを返せ……。)



両手いっぱいに買い物袋を持ち、虎太郎が大きな溜息を吐いた。

商店街に入ってから、辰川が行った『パトロール』とは、食べ歩き。

人形焼き、だんご、クレープ……。

とりあえず目についたものは一通り買って食べる。


ほとんど前に進まないまま、店主や商店街の人たちに囲まれる。


正直、虎太郎は完全にペースを乱されていた。




「まったく……見た目通りの適当オヤジじゃねぇか……。」


呆れ顔の虎太郎。

そんな虎太郎に、一通のメールが届く。



「お、北条さんからだ。」



メールを開くと、そこには……。


―――いやー迷惑をかけるねぇ。しばらく休ませてもらうよ。その間、辰川さんに虎の世話を頼んだから、まぁ勉強させてもらってよ。―――


「なーにが勉強だよ。食べ歩きしかしてねぇっての……。」



―――事件解決をするためには、地域住民の協力も必要な時がある。辰川さんは現役時代、その基盤を完璧に作り上げた刑事と言える。よーく辰川さんのことを見てごらん?僕にも虎にも足りない部分が、きっと見つかるよ―――



「俺と……北条さんにも足りない部分……?」


「おーーい、この辺は終わりだ。次は秋葉原にいくぞー。」



北条のメールに気を取られている虎太郎に、辰川が声をかける。



「お、おぅ……。」



つい素っ頓狂な声を上げてしまった虎太郎。

辰川の両手には、大量の買い物袋。

住民たちが持たせてくれたものらしい。



「これ食いながら移動しようぜ。ひとりじゃ食いきれねぇから手伝ってくれよ。」



買い物袋を差し出す辰川を見て、虎太郎は困惑する。



「……この人が、ねぇ……。」



こうして、虎太郎と辰川の『急造バディ』のパトロールが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る