2-8
北条が応援に来ていた刑事たちに、姉崎の身柄を引き渡す。
姉崎はその後抵抗しないまま、静かにパトカーに乗り、そして署へと向かって行った……。
「なぁ、北条さん……」
パトカーを見送りながら、虎太郎が北条に問う。
「深町が、もっと勇気をもって姉崎に気持ちを伝えていたら、こんなことにはならなかったのかな……。」
もし、姉崎がもっと早くに『愛』というものを感じることが出来たら……
虎太郎はそう、思ったのだ。
しかし、北条は静かに首を振る。
「深町は、里美ちゃんを愛するがゆえに見守ったんだと思うよ。きっと幼馴染み同士の複雑な距離感があったんだろう。気持ちを伝えることで、その距離感が崩れてしまうのを恐れた。普通の友達より近くにお互いを感じてたんだ、その距離を心地よく感じることだってあるよ。」
「そんなもんかな……。」
「うん。でもふたりとも遅すぎた。深町がもっと早くに気持ちを伝えていたら死なずに済んだかもしれないし、里美ちゃんがもっと早くに深町の愛に気づいていたら、人を殺さなかったかもしれない。……まぁ、たらればの話だけどね。」
北条が刑事になってから、嫌というほど耳にし口にする『たられば』という話。
もしもこれをしなかったら、もっと早く現場に駆けつけていたら……。
そう思う度に、胸が締め付けられた。
その『たられば』は、人の死から生まれたものだから。
「でもね虎……。」
「ん?」
「刑事はその『たられば』を経験して大きくなっていくんだ。もうこんなミスはたくさんだ、悲しい思いはしたくない……そう思うことで捜査に力が入るし、犯人を逃がしたくない気持ちが強くなる。虎……君も大きくなるんだ。立派な刑事になるためにね……。」
北条は、パトカーの去っていった方向から目をそらさずに言った。
「あぁ……。」
虎太郎は、余計な言葉を付け足すことなく、素直に返事をする。
今回の事件では、自分にはほとんど見せ場がなかった。
北条と特務課メンバーの捜査を見せつけられただけ。
メンバーたちがいかに優秀な捜査官なのかを、今回の事件で虎太郎は実感した。
(絶対に追い付いて見せるぜ……。)
虎太郎の心のなかで、新たな気持ちが芽生えた瞬間だった。
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