1-4
司令室に戻る北条と虎太郎。
「戻ったよ。」
「おかえりなさい。今朝になって2人の遺体が見つかったの。長島さんの捜索のときに潰した場所だったはずなのに……。」
司がモニターを指さす。
すぐさま志乃が2人目、3人目の画像をモニターに映し出した。
「うわぁ……。」
「こりゃ。ヒデェな……。」
思わず目を覆いたくなるような光景。
2人目の被害者は、両腕が。
3人目の被害者は、両足が欠損した状態で発見されたのだ。
「ふたりのと長島さんの3人の被害者に共通するものは一切なし。2人目は
画像を見る限りでは、『致命傷』以外に目立った外傷はない。
しかし……。
「でも、今回はハッキリと分かるような致命傷があるね。」
北条は、ふたりの画像を指さす。
司は、そんな北条に、
「相変わらず冷静ですね、北条さん。そう、今回の2人の遺体には明確な殺意がある。しかし、どちらも致命傷は1つだけ。吉野さんは心臓をアイスピックのような鋭利なもので一突き。君島さんも同じ。明らかに殺害を意識した致命傷ね。」
司が話すことを、志乃がどんどん記録し画像に添付していく。
「で、今回も検出された?睡眠薬。」
「えぇ。どちらも用法を遥かに超えた量の睡眠薬が検出されているわ。」
「……同一犯で、間違いなさそうだね。」
北条の表情が、険しくなった。
「そして……なーーんとなくだけど、犯人の目的が分かって様な気がする。ま、被害者の周りのことを聞かなきゃだけど、ね。」
北条が奥歯をぐっと噛み締める。
その、ギリ……という音が、虎太郎にも聞こえた。
(なんだよこのオッサン……凄い迫力じゃねぇか……。)
普段見せる、のんびりとしただらしない雰囲気の北条からは想像もできないような、刑事の顔。
(これが……元捜査一課のレジェンドかよ……。)
まるで、背筋が凍るような、そんな気持ちの虎太郎であった。
「悠真、ちょっと調べて欲しいことがあるんだ。」
「なになに?北条さんの頼みってことは、ある程度の『アテ』があるってこと?」
「うーーん、思い過ごしならそれに越したことは無いんだけどさ……。」
北条は、悠真のデスクに1枚のメモを置く。
悠真はそのメモを見ると、唸るように考え込んだ。
「何となく……分かったかも。後味悪いなぁ。」
「ごめんね~、あと、これも。」
そして、もう一枚メモを渡す。
その時、小声で北条は悠真に言う。
「……『こっちの件』は僕がいいよって言うまでは他言無用ね?もちろん司令室の皆にも。」
「……りょーかい。」
悠真は、北条の真剣な表情をみて、同じように真剣な顔で頷いた。
「虎、捜査行くよ~」
悠真に調べものを頼んだ北条は、虎太郎を連れて外に出ようと声をかける。
「え?もう行くのか?大体聞き込みは終わったじゃねぇか。2人目、3人目はいま捜一が聞き込みしてるんだろ?」
「まぁ、ね。でも僕たちが捜査に行くのは、違う人だよ。」
「違う……ひと?」
北条が笑みを浮かべながら虎太郎に言う。
「3人の被害者に共通点が一切ない。でもね、共通点がないことが共通点なんだよ。」
「……は?」
北条の説明を聞き、ますます意味が分からなくなった虎太郎。
「画像、だして?」
北条は志乃にこれまでの被害者の画像を出すように頼む。
志乃は頷き、素早く画像を処理する。
3人の遺体が、横並びになるように映し出された。
「うっわ……こう並ぶとなかなか酷いな……。」
虎太郎が不快感を露わにする中、北条は3つの画像を指さす。
「ここに、被害者のある『共通点』が浮かび上がる。さぁ何だろう?」
自分なりの答えを導き出している北条は、虎太郎にクイズをするように問う。
「んー、みんな、睡眠薬を飲まされている。」
「うん、それは手口ね。まぁ……そこもひとつのポイントでもある。」
「じゃぁ、外傷が少ないってこと?」
「それもきっと、犯人のポリシーだろうね。」
「……なんだよ、何かはっきりしねぇなぁ。」
思わせぶりな北条に、虎太郎が苛立つ。
「もっとあからさまな特徴があるじゃないか。可哀想だけど……さ。」
北条の言葉に、虎太郎だけでなく、司、志乃、悠真、そして辰川がハッとした表情で画面に釘付けになる。
「もしかして……遺体の、欠損?」
「……あたり。」
北条が画像を指さす。
「1人目の長島さん、綺麗な長い髪を綺麗さっぱり剃り落とされてる。そして吉野さんは腕、君島さんは脚……。みんな違う部位を切り取られている……。」
北条のさした指の先を見て、司が呟くように気付いた点を言う。
「そう。長島さんは、彼氏さんが言うにはだけど、彼女はとても綺麗な長い黒髪を持っていた。きっと吉野さん、君島さんも、美しい腕・脚で評判が高かったのかも知れない。つまり犯人は……」
「おいおい、まさか……」
虎太郎の顔が青ざめる。
犯人の目的にではない。
『目的』を即座に見抜いた北条と、その目的を想像してしまった自分に。
「そう。犯人は、切り取った被害者の身体で、『究極の美』を求めようとしているのかも知れない……。どれほど細分化されるか分からないから、目標があと何人いるか分からない。でも……まだ切り取られていない他のパーツの美人を早々に探さないと、被害者は増えるばかりだよ……。」
「ちくしょう……ふざけた犯人だぜ!」
北条の推理を聞き、犯人の目的に苛立つ虎太郎であった。
「さて、そろそろ僕たちも向かうとしようかね。」
捜査一課は、吉野・君島両被害者の関係者に事情を聞きに向かっている。
一人目の被害者である長島の家族や友人にも捜査の手が及んでいる。
「一課と一緒に捜査するのか?」
「まさか。それなら『僕たち』は要らないでしょ。他の部署とは違うから、僕たちは特務課なんだよ。」
「お、おぅ……。」
北条の意図が、なかなか読み取れないでいる虎太郎。
「で、どこに行くんだ?」
「うん……まずは長島さんの彼氏さんのところ。そして次は……整形外科をまわってみよう。」
「整形外科?」
被害者の恋人と言うのは理解できる。
しかし、整形外科となると話は別だ。
「整形した人を探すってことか?」
「そうだねぇ。患者さんを探すとキリが無いから、病院側にピックアップしてもらおうと思ってね。」
北条は、自信満々と言った表情で頷く。
既に、この事件の黒幕を知っているかのような口ぶりである。
こう言うときの北条は神懸っている。
そう、以前司が言っていたのを虎太郎は思い出した。
「……方針は任せる!!」
「りょーかい!」
きっと、北条には何か考えがあるのだろう。
虎太郎は、その考えに乗ってみることにした。
まずは、1人目の被害者である長島の住んでいた家に向かう。
そこには、恋人である本宮がいるはず。
署から長島宅までは、幸い徒歩で20分ほど。
北条と虎太郎のふたりは、急いで本宮に会いに行った。
「ごめんくださーい。」
「本宮さん、いるか?」
長島宅のドアを、北条と虎太郎がかわるがわるノックする。
ほどなくして……。
「どちら様ですか?」
元気のない男性の声がドアの向こう側から聞こえてきた。
「警視庁の北条でーす。こんな時に申し訳ありませんね。少しだけお話を伺いたいんですが……。」
北条はいつもの調子で本宮に言う。
しかし、本宮はドアを開けずに答えた。
「もう、お話しすることは全て伝えました。もうなにも……。」
「彼女さんの、『秘密』についても話したんですかね?」
「……っ!」
(……なんだ?)
この時虎太郎は、ある違和感を感じた。
おそらく、北条は本宮に向かってカマをかけたのであろう。
ある一つの『可能性』をもとに。
そして本宮はそれに引っかかった。
「入って下さい。中で話しましょう。」
ゆっくりとドアが開き、北条の口元に笑みが浮かぶ。
「北条さん……本当に秘密なんてあるのかよ……。」
玄関前で、虎太郎が北条に囁く。
「出来れば触れられて欲しくないから、秘密は秘密っていうんだよ。その領域に足を踏み入れるってことは……僕たちにも覚悟が必要だよ?」
虎太郎の問いに、北条は明確な答えを出さず、そう言った。
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