1-3
「うっ、うぅ……綾、どうして……誰がこんなことを……。」
1時間後。
署から連絡を受け駆けつけてきたのは、被害者である長島 綾の恋人であり同居人でもある、
「河川敷で発見されたときにはもう……。長島 綾さんで間違いないですね?」
「……はい……。」
本宮は、項垂れたまま力なく北条の質問に答えた。
「綾さんがご帰宅されないことを不審に思い、捜索願を出されたそうですが……、23歳の大人の女性が1、2日家を空けることは、考えづらいことではないのでは?」
疑ってかかるのは、刑事の仕事。
本宮の発言に綻びが無いかを、北条は聴取の中から探る。
「これを……見てください。」
すると、北条の問いに本宮は自分のスマホを出して見せた。
「綾は……仕事の時間が少し遅れるだけでも、私にこうやって連絡を送ってくれたんです。途中で買い物に行くときだって……ほら。」
本宮と綾のメールのやり取り。
そこには事細かに、仕事の休憩時間から帰宅に至るまでのお互いの行動が、まるで定期報告されているかのように送られていた。
「うっわ……互いに束縛って感じ?」
虎太郎がその画面を見て眉をひそめる。
「いいえ、これはどちらかが決めたものではありません。付き合い始めたときからずっと、どちらともなく始まったんです。」
「うんうん……仲が良かったんだねぇ。」
「ですが……。」
本宮はさらに画面を下にスクロールさせる。
「この日から、私の質問に既読もつかず……。いつも仕事が終わるのが18:00頃なので、それから2時間後……。どこに寄るとも連絡が来なかったんです。会社の友人に聞いてみたけど、知らないって……。」
「うん、それで心配になって届を出したんだ……。」
「はい。恋人の私が言うのもなんですが、綾は本当に綺麗な子で……、長くて綺麗な黒い髪、そして整った顔立ちが社内でも人気だったんです。だから……もしかしたら変な奴に声をかけられて連れ去られたのではないかと……。」
涙声で話す本宮。
「結果……何者かに連れ去られて……か。」
虎太郎が、悔しそうに呟く。
「もっと早く見つかっていれば、助けられたかもしれない……。」
北条も、悔しさと申し訳なさの入り混じった表情を本宮に向けた。
「写真……ある?」
北条は、綾の画像が残っていないか、本宮に訊ねる。
「えぇ。綾の写真は、もうデータがいっぱいになるほど……。」
本宮が綾の写真を北条に見せる。
長い黒髪の美しい美女が、そこには映っていた。
「これは……モデルさんみたいな美人さんだったんだねぇ……。」
北条が、綾の生前の写真を見て感嘆の溜息を吐く。
「はい……。僕には出来すぎた彼女で……。髪のことは僕にも自慢していました。CMでも使われたって、だからまた使ってもらえるようにお手入れはしっかりしなきゃって……。」
そんな長く美しい黒髪が、遺体には無い。
綺麗に剃り落とされてしまっているのだ。
「そっかぁ……。ちゃんと返してあげたいねぇ、ホトケさんに……。」
北条が、寂しげな表情を遺体に向けた。
「お願いします刑事さん!必ず、犯人を捕まえてください!僕に出来ることだったらなんでもします!協力は惜しみませんから!!」
北条に縋りつくように声を上げる本宮。
北条はそんな本宮の肩を優しく叩くと、
「それは、心強いねぇ。じゃ、その時が来たら頼りにさせてもらうよ。」
……と、優しく声をかけたのだった。
「……なんか、辛いな。俺にも婚約者がいるけど……、突然あんな姿で対面したら、俺だったらあんなふうに話せるか、疑問だわ。」
本宮を署の入り口まで見送り、指令室に戻る途中で虎太郎が呟く。
「あぁ……、元気?彼女さん。いろいろ支えてくれてるみたいじゃない。」
「まぁ……おかげさんで。」
虎太郎には、同じ歳の婚約者がいる。
虎太郎がまだ交番勤務の時に知り合った女性で、警察官と言う過酷な仕事を陰ながら支える美女である。
職業は保育士。
心優しい虎太郎の彼女にはぴったりな職業である。
そんな彼女に、虎太郎はつい先月プロポーズをし、見事結婚する運びとなったのだった。
「大丈夫さ。虎なら守れるさ、彼女さん。」
「あぁ……必ず守る。」
自分の目の前で、あんなふうに彼女が死ぬことだけは絶対にあってはならない。
虎太郎は今回の時間の犯人逮捕を強く決意するのであった。
そんな時だった。
「お?電話?」
署の前にいる北条の携帯に、司令室から電話が来ている。
「はいはい?今近くにいるよ?」
「北条さん、虎太郎も一緒?すぐに戻ってこられる?」
声の主は、司だった。
「どうしたんだい?」
そのただ事ならぬ雰囲気に、北条が司に問う。
「河川敷に、2人の遺体が見つかったわ。どちらも女性。長島 綾の遺体発見現場から、それぞれ『ピッタリ2キロ離れた場所』で……。」
「……そりゃ、穏やかじゃない話だねぇ……。」
司の連絡に、北条の表情が険しくなる。
「おい北条さん、何の話……」
「虎ぁ、すぐに司令室に戻るよ。また遺体が上がったらしいよ。同一事件かどうかは分からないけどね……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます