1-2
「死因は、薬物による中毒死だったッス。外傷はなく、傷痕は腕に注射痕がひとつだけ。これはフツーの人には気付かれないレベルッス。」
司令室に検死の報告を持ってきたのは、若い女性解剖医・
美しい顔立ち、均整のとれた体型。
『きちんとしていれば』美女なのだが、いつもよれよれの白衣を着ていて、髪もボサボサ。
黒淵の瓶底メガネに独特な口調から、現在彼氏はいない。
「おー雪ちゃん、お仕事ご苦労様~!今度お疲れさん会しよーよー」
北条が報告に来た雪を食事に誘う。
「い、いや……自分、仕事めっちゃ溜まってますから……また今度ッス……」
真っ赤な顔で精一杯断る雪。
毎度の事なのだが、北条はこんな風に雪をからかうのが好きである。
「ざーーんねん。じゃ、そのうち仕事がなくなったらね。それで、なんの薬物?」
「テトロドトキシンっす。」
「テトラ……何だって?」
「テトロドトキシン。」
「テ、テトトテ……。」
聞き慣れない薬品名に、雪の報告書を見ながら虎が頭を捻る。
「あー、テトロドトキシンって……フグ毒だね?フグにでも当たった?」
北条は毒物事件も数多く扱ってきた。テトロドトキシンと言う単語はこれまで幾度となく出てきているものである。
「いえ……胃の内容物は、主にパンケーキ……。きっと喫茶店かパンケーキの専門店で犯人と出会い、その後殺害された……が有力ですね。他にも……」
雪は、パラパラと資料を捲る。
「睡眠薬が出てます。おそらく眠っている間にテトロドトキシンを注射され、殺された……がいちばん有力ですね。」
「うーん、酷いことするねぇ。」
雪の報告に、北条は苦笑いを浮かべた。
「……じゃ、報告は以上ッス。私はこれで失礼するッス。」
報告することを簡潔にまとめると、雪はそのまま司令室を出ていった。
「んー、わざわざ睡眠薬を飲まされるってことは、近親者かなぁ……。そうだ、被害者の身元、洗わなきゃ……。」
雪から検死報告を受けたので、早速捜査に出ようとした北条。
「被害者は
そんな北条に、被害者のデータを画像に映してみせるのは、オペレーターの志乃だった。
「志乃ちゃん、相変わらず仕事が早いねぇ……。どうして分かったの?」
「ちょうど被害者の捜索願いが出てました。」
「誰から?」
「同居する恋人です。2日経っても被害者が帰ってこないから、心配になったそうで……。」
「タイミングが……良いのか悪いのか。じゃぁ、彼氏さんにも教えてあげなきゃだね。彼女に何が起こったのかを……。」
北条は、やるせない気持ちになったが、それは仕事として割り切った。
「彼氏さんに連絡とってあげて。会わせてあげよう。あと、親御さんにも……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます