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犯人を確保した北条と虎太郎は、そのまま署に戻る。
「しっかし北条さん体力ねぇなぁ……。刑事なんだから体力つけとけよ。」
犯人を引き渡した後、北条と虎太郎が本部に戻りながら会話をする。
「あのねぇ虎……、人間っていうのは年老いていく生き物なのだよ。いつまでも君みたいに筋肉バカではいられないわけ、分かる?……君もその時に備えて教養をだねぇ……。」
「必要ねぇ。何歳になろうが、犯人を追い詰めて捕まえる。俺の刑事としての生き方はこれだけだ。」
「いつか、警部や警視になったら部下たちを指揮して操らなければならないときもあるよ?」
「……北条さんだって警部なのに現場に出てるじゃねぇか。」
「僕は……ねぇ、署内のカーストから外れたいだけだよ。」
北条と虎太郎。
ふたりは『新しい課』に配属されてからバディを組むようになった。
経験豊富な元捜査一課・北条と、若手ながら信念を持ち勢いのあった元マル暴・虎太郎のコンビは、いまのところ問題なく噛み合っている。
熱血漢の虎太郎は犯人確保のために猪突猛進。
そんな虎太郎を北条が経験でカバーする。
体力は年齢的なもので衰えてきている北条が出来ない、力技は虎太郎が担当する。特に急を要する出動の時や、カーチェイス後に路地に犯人が逃げたなどと言うときには、とにかく虎太郎が走る。
そんな絶妙なバランスで、北条と虎太郎は『新しい課』に入ってから数々の事件を解決してきた。
「あ、北条さんお疲れ様です!」
署に入ると、若手警察官が北条に挨拶をする。
「はい、おはよー。元気があって何よりだよ。」
「北条さーん!今日は食堂来るんですかー?」
「あ、ごめんね。今日は買ってきちゃったよ。特製牛めし。」
「残念!今度一緒に食べましょー!」
すれ違う警官達が、みな北条に挨拶をしていく。
「北条さん……無駄に人望あるよな……」
「これこれ虎太郎くん、『無駄に』が余計だよ。」
「ま、『捜査一課の伝説』のバディのひとりなんだ、人気があるのも仕方ねぇか……」
「これこれ、『仕方ねぇ』はないでしょ……。虎くん、君はもっと私のことをリスペクトしても良いんだよ。」
北条と虎太郎。
全く正反対のふたりのようで、意外と馬が合う。
直情的な虎太郎を、北条がのらりくらりとかわしていく。
捜査でも真っ直ぐな虎太郎を、北条は知識と経験を使ってフォロー・サポートする。
かつての北条の『伝説のバディ』とまではいかないが、北条と虎太郎のバディは、警視庁でも評判の名コンビとなっていた。
警視庁署内の一番奥に、虎太郎と北条の『職場』があった。
『特務課』
そう書かれた表札のある扉を開けると、そこには通信センターのような設備が揃った部屋が広がっている。
「ただいまーー。」
まるで自分の部屋に帰るかのように、虎太郎が大きな声で挨拶をする。
「……お疲れ様。確保までの時間、早かったわね。」
帰署したふたりをいちばん最初に迎えたのは、20代半ばほどの女性だった。
制服をしっかりと着こなし、髪をきっちりとまとめ、表情には凛としたものをうかがわせる。
「お疲れっす、司さん。」
彼女が、特務指令課の司令官・
警視庁きっての才媛で、未来の女性初の警視総監候補とも言われている彼女が、この特務課の発足を現在の警視総監に提案し、自らがその司令官として配属となったのだった。
新部署を発足させずとも、捜査一課に配属になっていれば、昇進の道も短かったのだが、司にはこの部署を立ち上げる理由があった。
司が感じたのは、各課の間に生じる『壁』であった。
もっと上手く各課の連携が取れていれば、解決できた事件はたくさんあったはず。
そう、司が手掛けた重要事件も、部署間の壁が邪魔をしたことにより犠牲者が出たのである。
この特務課は、『各方面のスペシャリストを集め、各課の境界にさえ踏み込める』組織なのである。
司にとっては、目先の地位よりもより犯罪を防ぎ、犯罪者を捕まえることの方が大切だと感じているのだ。
「はいはいお疲れ様……っと。司ちゃん、今度犯人を追跡する任務があったら、予め最短のルートを教えておいてよ……。」
虎太郎の入室から少し遅れて、北条が指令室内に入る。
「お疲れ様でした。犯人の行動が読めたら、随時お知らせすることにしますね。」
司の特技はプロファイリング。
臨床心理士顔負けの心理分析能力を持ち、犯人の些細な声の高さ、仕草等で犯人の心理を暴く。
「ふたりとも、お疲れ様でした。かっこよかったですよ!」
そして、司の背後からふたりに声をかける、線の細い美女が、オペレーターの
彼女は道路交通情報センターからこの特務課に異動となった、将来有望な若手である。
様々な情報を的確に分析する能力に長けており、また情報処理能力も高い。
彼女の情報収集力の前では、いかに犯人が上手く逃げたとしても無駄である。
「お疲れ様。今回は犯人確保のタイムレコード、更新したかもね~」
そして、志乃の隣のデスクに座る、飄々とした青年が、
「あれ?辰川さんは?」
虎太郎が、辺りを見まわし『もうひとりのメンバー』を探す。
「あぁ……辰川さんはいま、奥の部屋よ。どうしても今回のレースは外せないんですって。」
司が笑いながら虎太郎の問いに答える。
「辰川さん……曲がりなりにも勤務中だろ?ギャンブルとかやってる場合じゃ……。」
「くっそーーーーー!!!馬の調整をしっかりやるのが調教師の仕事だろうが!!残り100メートルで失速しやがってーー!!!」
虎太郎が呆れ顔で奥の部屋を見た、その時だった。
奥の部屋から怒声が響き渡る。
「あちゃぁ……辰さん、またスッたねぇ……くくく……。」
北条が必死に笑いを堪えながら辰川と呼ばれる男の方を見る。
「……ったく、いまの日本の若者は根性が無くていけねぇや。人も馬もな……。」
ほどなくして、くわえたばこの男が奥の部屋から出てきた。
「やぁやぁ辰さん、まーーた負けたみたいだねぇ。」
「なんだよ北条……。勝ってもお前には絶対に奢らねぇからな!」
「まぁまぁ、そんなこと言わずにさぁ……。」
男の名は
多岐にわたる爆発物の知識から、ひとつでも爆薬・火薬が使われた事件においてはその爆発物の入手ルートや効果などを瞬時に導き出し、犯人逮捕に繋げることが出来る実力の持ち主である。
また、辰川本人も爆弾に関する知識・技術が豊富で、簡単な爆弾であれば解除だけではなく作成まで出来てしまう。
「辰川さん……競馬は良いけど、指令室内は禁煙よ。それだけは守って頂戴って前から言っているわよね?」
北条と辰川のやり取りに、司が呆れ笑いを浮かべながら割って入る。
「おぉ……すまんすまん忘れてたわ……。どうしてもレース中は口が寂しくてな……。」
「だから、ガムが良いってこの前話したばかりじゃない……。」
「まぁまぁ、そんなにがみがみ言わんでくれ。美人が大なしだぞ?こんなにスタイルだって良いんだから、お淑やかにしていたら結婚相手だって……いてててて!!!」
注意されたことをのらりくらりとかわしていた辰川。
調子に乗って司の腰に伸ばした手を、司は易々と捻り上げた。
「辰川さん?今のご時世、こういう行動は即問題になるの。生まれた昭和の時代とは違うのよ?」
にこやかに辰川を諭す司。
しかしその目は、笑ってはいなかった……。
北条、虎太郎は現地捜査員として。
司は指令室の統括。
志乃は悠真と協力して情報収集とオペレーター業務を。
そして辰川は爆弾等の処理。
この6人が、警視庁が新たに発足させた組織『特務課』のメンバーである。
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