第15話 ベルティ宰相の弟

 ステレアの南に広がるベルティ王国。


「国土だけ見るとオルセナやホヴァルトより狭いですけれど、川が多くて、土地が肥えているので人口も多いんですよ」


 エリーティアが説明するが、確かに、馬車などの行き来はオルセナやステレアよりも多い。


「オルセナとホヴァルトが戦っている。ベルティは漁夫の利が狙える……ように見える」


 ベルティが強いのならば、オルセナとホヴァルトの争いはチャンスであるはずだ。


 仮にベルティがどちらかにつけば、戦況が大きく変わるからだ。


 ただ、そうではないようだ。



「この国は10年くらい前まで内戦をしていたので、まずは国内の回復をしっかりしたいと思っているみたいですね」


「内戦?」


「はい。前々王に6人の王子がいて、それぞれが争っていたそうです」


 ベルティには8つほどの民族がいるらしく、前々王はそれぞれの民族から妻を迎えて、生まれた王子をそれぞれの民族の統治者として立てていたらしい。


 このため、前々王の時代にはうまくまとまっていた。


 しかし、その前々王が病死すると、それぞれの王子は各民族を代表する存在なので引き下がれない。


「困った前々王だ……」


 それでは内戦が勃発して当然である。ルヴィナは呆れてしまった。


「そうなんですよね。ただ、お父様とお母様が第四王子ルーリーに味方して、ルーリー派が勝ちました」



 オルセナ女王のエフィーリアと宰相ツィア・フェレナーデは、第四王子のルーリーに協力して、王都ステル・セルアを占領したという。


 その後、ルーリーが第二王子のフェネルと同盟して、5年で国土の八割を自勢力のものとして事実上終結させたようだ。


「フェネルが国王となりましたが、昨年病気で亡くなったようで、現在はルーリーが国王となっています」


「なるほど」


 新しい王になって一年とあっては、国の外に出ていく余裕はないだろう。


「あと、最後の勢力がまだ頑張っていますし、ね」


 6人いた王子はほぼ戦死したが、第5王子のカスタリのみが依然として本拠地周辺で頑張っているらしい。脅威となるような存在ではないが、要害にいるため手出しはしづらい。完全に無視するわけにもいかないようだ。



 10日ほど移動し、中部のアネットに着く。


「ベルティ王国の王都は南部にある最大の都市ステル・セルアなのですが、国王ルーリーは長らくここを根拠地にしていたので、国王となってからもここにいるようですね」


「そうするとステル・セルアは?」


「確か、前王の側近が治めていたかと思います」


 そのうえで、ルヴィナが気にする人物の名前も出て来る。


「ノルンも宰相の弟として、ここアネットにいるはずです」


「ほう……」


「ノルン……ノルベルファールン・クロアラントは、前々王の宰相だったブルフィン・クロアラントの確か10番目の男子だったそうです」


「そのあたりの話は聞いた……貴族だから不思議はないが、たいした人数」


「そうですね。で、現在は4番目の兄メミルス・クロアラントがベルティ宰相となっています。その下がどうなっているかは分かりませんが、次の宰相候補であることは間違いないですね」


 4番目のメミルスと10番目のノルベルファールンの間には20年の年齢差があるらしい。


 当然、母親は違うようだが。


「この2人はよく似ているみたいな話は聞きます」



 アネットに入ると、如実に色々な者達がいることが分かる。


 肌が黒い者、そうでない者、衣装も会う人会う人が異なっている。


「凄いですね。こんなに多彩な街は見たことないですよ」


 アタマナが驚いているが、ルヴィナも同感だ。


「ここはベルティのちょうど中心地にあるので、各民族が満遍なくいるみたいですね」


「となると、統治が大変」


「そうだと思います。見習いたいですね」



 そんなことを話しながら歩いているうちに大きな屋敷についた。


「ここが宰相家ですね。ノルンもここにいると聞いています」


 エリーティアは玄関まで行き、衛兵に話しかける。


「オルセナから来たエリーティアと申しますが、ノルベルファールン様はおられますか?」


「ノルベルファールン様ですか? ちょっとお待ちください」


 いたって事務的な態度であることに、ルヴィナは新鮮な思いを受けた。


 オルセナではかなり遠慮気味だったエリーティアだが、ここでは普通の態度だし、相手も普通だ。ホヴァルトのように特に知っているという様子ではない。


 ベルティが中立的な立場であり、エリーティアの出自などがどうでも良いということなのだろう。



 しばらくすると、玄関に紫色の瞳をもつ少年が出て来た。


「おや、これは、これは……」


 一瞬、呆気にとられた顔をした後、ノルンはニコリと微笑んだ。

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