第14話 魔力と移動
フリューリンクの中に入った3人は半日ほど見て回った。
おおまか見終わった頃には夕暮れ時になっていたので、その日はフリューリンク城内で過ごすこととし、宿をとる。
食堂でマルブスト川の魚料理などを食べていると、エリーティアが感想を求めてきた。
「どうでしたか?」
ルヴィナは少し考えて、首を振る。
「これという有効な手はない。よしんば大魔法で門を破壊しても、すぐに埋め立てる手ができている」
フリューリンクは広大な城壁に包まれているが、入り口は南北に二つのみである。
しかも、北側は広いマルブスト川の橋を渡らなければならないし、南側は狭い急坂を登っていかなければならない。城門や城壁を破壊したとしても、ただちに行けるものではないし、付近に大量の土砂が用意されており、すぐに埋め合わせることができるようになっている。
「大量の土砂については、ジュニス王やお母様のような大魔道士への対策としてステレア女王が設置していたものみたいですね」
エリーティアが説明する。
「なるほど……。あれだけの門や壁を破壊できる者がいる。それを前提にした措置なのですね」
ミベルサではそのような大魔道士自体が存在しないので、城壁や城門が吹き飛ばされた措置というものを予定する必要がない。
それだけ、この大陸の戦闘は大変であるらしい。
(いや、ちょっと待て……)
ルヴィナはノシュールでのことを思い出した。
「エリーティア様はノシュールで、瞬間移動のようなことをされていた」
「あぁ、あれですね」
エリーティアも思い当たるところはあるらしい。
「あれで城門の中に入るのは無理ですね……」
「何故?」
「うーん、それは、百聞は一見に如かずですし、明日になれば説明できると思います」
「……?」
どういうことか分からず、アタマナと思わず顔を見合わせる。
ただ、明日になれば説明すると言っているから、明日まで待つしかないのだろう。
その日はそれ以上、話題を増やすことなく就寝の床につくことにした。
翌朝、3人は馬車を借りてフリューリンクから南に向かうことになる。
城を出て、一気に坂道を下り終えたところで、エリーティアが南の方を指さした。
「向こうの方に大きな木が見えますよね?」
「見える」
1キロほど南だろうか、大きな木が確かにある。
「あそこに移動してみますね」
エリーティアはあっさりと言って、少し目を閉じる。
一瞬でその場から消えた。
「うわ! 本当にいなくなりましたよ! あっ! あっちに!」
アタマナが驚いているように、エリーティアは一瞬で木の付近まで移動していた。
「行こう」
ルヴィナはアタマナと共に木の方へと移動する。馬車なので若干早いが、それでもかなり時間がかかる。
ようやく木の下にいるエリーティアのところにたどりついた。
「驚きました。本当にこれだけの距離を一瞬で移動できるんですね」
それも驚きであるが、同時に、「では、何故フリューリンクに入れないのか?」という疑問もある。
もちろん、理由らしいものは分かる。
「城壁があるから邪魔になる?」
「邪魔……ではあるのですが、ルヴィナ将軍の考えとはちょっと違うかもしれませんね」
エリーティアは頷いた後、再度南側を指さした。
「ここから南に大きな空間が広がっています。例えば、これをそのまま絵に描くことはできますね」
「もちろん」
「ただ、実際にはそれぞれの距離は異なっています。目の前にある森と、その奥にある山とでは全然距離が違いますね」
「……もちろん」
「でも、紙の上で絵にすると両者の間に距離はないですよね。実際、ある感覚で把握すると距離はゼロになるんです。そのイメージを強く持って、魔力で身体を移動させるわけです」
「それで移動できるんですか? 魔法って便利ですねぇ」
アタマナがびっくりしているが、ルヴィナももちろん同感だ。
それと同時に城壁を超えられない理由も分かる。城壁の向こうの景色はイメージができない。となると、そこに移動することができないということだ。
「……全くできないわけではないんですけどね。できるはできるのですけれど、割と負担も大きくなるのでできればやりたくないですね」
「……エリーティア様は大抵のことはできる」
「そんなことはないと思いますけれど」
照れ隠しのように笑い、馬車に乗り込む。
「それではベルティへと向かいましょう」
そう言って、馬車を南へと走らせた。
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