第13話 北東部の大要塞
ベルティに行きたいというと、ルビアはすぐに船を手配してくれた。
ホヴァルトからベルティに向かうには、マルブスト川を下って旧ステレア王都フリューリンクまで向かい、そこから南下するのがもっとも近い。
ベルティ王都ステル・セルアまで行くとなると国土をほぼ横断することになるから、更に東側に抜けて船を利用した方がよいが、ベルティ国王のルーリーや宰相メミルスは中部のアネットに滞在している。
「そのまま馬を借りて向かった方が早いでしょう」
と、早速川を下る。
ホヴァルトの高地から、短時間で低地まで降りるため、船はかなりの揺れを伴う。
これに楽しみを感じ、そのスリルを楽しみに何度も乗り込む者も存在するほどだ。
ルヴィナもアタマナも何度も乗りたいとは思わないものの。
「……確かに、この加速感は馬とは違うもの。楽しむ者も多いかもしれない」
「ですねぇ。ぜぇ、ぜぇ」
「アタマナさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。さすがに揺れが激しいところではちょっとビビりましたが……」
船は既に一番下るところを抜けている。
一番急なところ以外は大丈夫ということらしい。
そのまま川を下り続けると、旧ステレア王都フリューリンクが見えてくる。
アクルクア大陸では最大の要塞として知られるところであり、城壁の高さは25メートル。
西側と北側は湖と川によって守られており、東側には高い傾斜がある。唯一攻め込めるのは坂道となっている南側だけ、難攻不落の地という評価を受けている。
「これは凄い……」
ルヴィナもその城壁を見上げて、思わず絶句した。
「この高さの城壁に、この要害……、この城が落ちるということが、想像できない」
しかし、実際にこの城は3年前には陥落している。
ジュニス・エレンセシリア率いるホヴァルト軍がこの城を占領したことにより、今回の戦争が幕を開けたのだから。
「ジュニス王もさすがに外から攻め落とすのは無理と思ったのか、中から崩したみたいですね」
エリーティアの話によると、誘われて参加していた式典中に決起したらしい。
「……これだけの城壁があるから、中の守りは脆いもの……」
堅固な要塞は、その外の要塞に頼ってしまうので中が脆いということは、よくある。
しかも、ジュニス達が女王リルシアをすぐに捕虜としたために、ステレア軍もどうにもならなかったらしい。
「現在、元ステレア女王リルシア陛下は隔離されたところにいるらしいですね」
それはルヴィナも話としては聞いていた。ステレア地域が反乱しても困るので、待遇自体は十分なものがあるという。
ステレア軍自体も特に解体されるようなこともなく、そのまま置かれているらしい。リルシアに万一のことがあるかもしれないと考えると従うしかないのだろう。
エリーティアは特にフリューリンクに立ち寄るつもりはないようだ。
ただ、仮にオルセナが反攻するとなれば、一度に山攻めするのは難しいのでこの方面に軍を差し向けることもありうるはず。
(どうやれば落とせるのだろうか……)
ジュニスが中から落としたと言うが、確かに外から落とすのは難しそうだ。
(エリーティア様なら中から落とすことはできるかもしれない)
ジュニスがやったように、城にいる指揮官を倒して、そのまま中から乗っ取るという方法はエリーティアの魔道力ならできるだろう。
ただし、彼女1人では攪乱はできても占領までには至らない。
占領するにはそれなりの人数、兵士達を揃えて効率よく動かす必要がある。効率よく動かすことまではできるが、果たして相手に気付かれずにオルセナの兵士をここまで移動させることができるか。
(千か二千なら、私なら出来ると思うが……)
総司令官のエルクァーテ・パレントールでもできるかもしれないが、他の者には無理だろう。彼女が程なく病死することを考えるとできるのは自分だけということになる。
(とはいえ、私がそこまでいることはないはずだ)
この大陸にいるのは三年間と決めている。
それまでにオルセナがフリューリンクを攻めるのなら手伝うことができるが、それはないだろう。
そんなルヴィナを、エリーティアが黙って見ている。
「中に入りますか?」
「いや、エリーティア様が寄らないのなら……」
「何だか、中を見たそうな顔をしていますが?」
「……仮に攻めるなら、どうすればいいかは考えていました」
正直に言うと、エリーティアも笑って頷いた。
「では、入りましょうか。普通に見たいと言うだけなら、大丈夫だと思いますよ」
ここに来るにあたって、特に王妃やホヴァルトの関係者から紹介状の類をもらっているわけではない。
ただし、フリューリンクはガイツリーン諸国とベルティを繋ぐ主要路の真ん中にあるから、余程怪しい者でない限りは誰でも入れる。
様子見するくらいなら、特別問題もないだろう。
3人はそのまま大要塞へと向かっていった。
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