第16話 帯同の提案
3人は中庭に案内され、ノルンの正面に座った。
「覚えていないかもしれないけど。久しぶり」
ルヴィナの挨拶に、ノルンは苦笑する。
「忘れるはずがありませんよ。貴女の部隊ほど恐ろしいものはここの戦史をどれだけ紐解いても出てきません」
「それは幸い。これはお土産。気に入ったなら受け取ってほしい」
そう言って、ルヴィナはアタマナを前に置く。
「えっ、ちょっと、ルヴィナ様ぁ!?」
「アハハハ……」
「半分は冗談。アタマナ・ハワタサと言って、私の従者」
「半分は冗談ということは残りの半分は何なんですか!?」
アタマナが抗議しているうらで、ノルンも楽しそうに笑いながら。
「なるほど、アタマガ・バカダナさんですね」
「違います! わざとやりましたよね!?」
その時点で3人とも静かにしているエリーティアに気づく。
のけ者にされた不満というよりは、わいわいやりあってある様子を面白そうに見ているのであるが。
「失礼。騒ぎ過ぎた」
「そうですね、エリーティア殿下もご来訪いただき光栄です。この度はどのような話があるのでしょうか?」
「特に話はないですけれど、ルヴィナ将軍とアタマナさんが一緒なので、ノルンのところに行くと面白いかなと思いまして」
「なるほど。確かに暇つぶしに、私はちょうど良い相手でしょう」
ノルンは楽しそうに笑う。
「あ、別に馬鹿にしているとか、そういうことではないですよ」
「分かっておりますよ」
ノルンは頷いて、横に立てかけていたものを手にした。
それをテーブルの上に広げると、アクルクア南部の地図のようだ。
「これは……?」
「実はですね。我々はフンデ地方に攻め入ることを考えています」
ノルンはベルティ南部の砂漠だらけの国を指差した。
ルヴィナは無言のまま、ノルンとエリーティアを見比べた。
無言なのは、そこに攻め込む価値がどれだけあるかが部外者であるゆえ、分からないからだ。
ただ、エリーティアの様子を見る限り、それほどの価値は無さそうという印象がある。
「フンデに攻め込むのですか?」
「そうですよ。この国は砂漠だらけでわざわざ軍を派遣してまで治める価値はないのでは、とお思いかもしれませんが、そういうこともないのです」
「金や銀でも取れるのですか?」
エリーティアの質問は的を射ている。
砂漠だらけの場所ということは、生産力などは期待できないだろう。もちろん、海に面している地域も多いので漁業などは成り立つかもしれないが。
それでも軍を派遣して占領するとなれば、それ以上の価値があるということだ。例えば地下資源であろう。金や銀、あるいはそれ以上の希少金属などである。
ノルンはこの点でも首を横に振った。
「あれば嬉しいのですが、とりたててあるという話は聞きませんね」
「では、どうしてですか?」
エリーティアが問いかけている。
何でも知っているような印象のあるこの王女が戸惑っているのは、ルヴィナには非常に新鮮である。
「……試してみたいんですよ」
「試してみたい?」
「そうです。私には私なりの政権構想があるわけですが、それがうまくいくかどうかは分かりません。ベルティで失敗するよりは、フンデの方が良いかなと思いまして」
ノルンはその理由を説明する。
まず、フンデは産業などもない砂漠ばかりのところであり、統治が滅茶苦茶であること。多少でもまともな構想をもちこめば、多くの人間にとってはより良い結果になるのではないかということだ。
続いて、彼自身が集めているスタッフに経験を積ませたいということもあるらしい。
「全員優秀だと思って採用しているのですが、本当に優秀なのかどうかは何かを任せてみないと分からないですからね。そういう点でも、フンデで実験できるのは貴重だと考えているのですよ」
「なるほど……」
「せっかくここまでお越しいただけたのですから、もし良ければ協力してもらえないですか?」
「私達に?」
エリーティアは目を丸くした。
「はい。もちろん、ヴィルシュハーゼ伯爵も含めて、ですが」
「私も?」
予想外の展開になった。
故郷に戻るにはまだ2年半ほど残っているから、参戦するくらいの余裕はある。
ただ、ノルンが絶対に味方であるという保証はない。アタマナと2人で参戦して、砂漠の真ん中で裏切りにでもあったら大変だ。
「エリーティア様が賛成なら」
決めかねたので責任をエリーティアに投げることにした。
当然のようにエリーティアは困惑する。
「え、私が決めるんですか?」
「アクルクアでの活動において、私はさしあたりエリーティア様の下についた。私の動向を決めるのはエリーティア様」
ルヴィナの言葉にノルンも頷いた。「どうでしょうか?」とエリーティアに頼む。
こうなると、人の良いエリーティアは断われない。
「……分かりました。それでは、私達もついていくことにします」
追放将軍、世界を放蕩放浪する 川野遥 @kawanohate
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