第11話 ホヴァルト王妃の方針
ありえないことではない。
エリーティアは魔力もさることながら、かなり頭も良い。
ルビアは先ほど、「宰相や自分への負担が大きい」と愚痴をこぼしていた。敵国の王族であっても単純に手伝ってくれるなら重宝するのかもしれない。
また、エリーティア自身、ルビアに敵意を有していないようだし、かなり親しくしている。自国では得られない人との付き合いを、こちらの方で得られると思っているのかもしれない。
(色々ややこしい関係だ)
複雑な生い立ちがあるゆえに、成り立つ関係なのだろうか。
ルビアが訴訟を処理する様子をルヴィナは、エリーティアとともに眺めることになった。
それを眺めていて分かったことは。
(この王妃は、情緒的な処置は全く行わない)
ということだ。
あくまでテキパキと、決められた規則に従って処理をしている。
特別な事情があったといった抗弁がされても、「だからルールを曲げていい理由にはならないわ」とあっさりと却下する。そんな様子をエリーティアは興味深そうに眺めている。
(エリーティア様とは真逆だが……)
ノシュールの戦場でホヴァルト兵に死者を出したくないと色々苦労していたエリーティアである。
ルビアのやり方から得るものは無さそうには見えるが、本人はそう思っていないのだろうか。
三時間ほどの時間をかけ、四件の案件を処理してルビアの決裁は終わった。
厳しい人だ。ルヴィナはそんな印象を抱いたが、表情から察知されたのだろう。
「何か言いたいことがある?」
と、淡々とした様子で尋ねられた。
「いえ。厳しいと思っただけ」
「まあね」
ルビアも否定はしない。あっさりと認めて、彼女のうちの理由を話し出す。
「この国は国王のカリスマ制で成り立っているの。慈善的なことは陛下がなすものと決まっているわ。だから、王妃の私は徹底的にシビアに見るのが役目なわけ」
「……なるほど」
ホヴァルト国王ジュニス・エレンセシリアはこの大陸で最強と言われているし、ホヴァルトの象徴のような存在である。
国民にとって良いことをする……つまり必要な場合には恩赦などはジュニスがなすのだろう。王妃のルビアは敢えて憎まれ役を買って出ているようだ。
(ひょっとしたら)
エリーティアはというと、既にこれ以上ないほどオルセナでは嫌われている。
彼女としてみると、既に嫌われているからより嫌われる形で、兄たる国王のカリスマをあげられるのではないかと考えているのかもしれない。
(ただ、ホヴァルトとオルセナの国王は違う。ホヴァルトの国王は凄い。オルセナの国王は今のところ)
それほど目につく能力があるわけでもない。
エリーティアが嫌われるだけのカリスマを、兄王は有していないのではないかと思えてくる。
訴訟が終わると、近くにある建物に入った。
「ここは国王と私の私邸よ」
ルビアからそう説明を受けたが、国王の私邸と言うには狭い。ホヴァルトという高地ゆえだろう。
そこで飲み物や野菜などを出される。
「魔力の研究はしているの? ティロムが言っていたけれど、結構凄いらしいわね」
ルビアが茶を飲みながらエリーティアに尋ねてきた。
「えぇ、まぁ……」
謙遜するエリーティアに対して、ルビアは窓の向こうにある山を見た。
「あの山頂くらいなら吹き飛ばせるかしら?」
「……多分」
ルヴィナも視線を向けた。4000メートルほどありそうな山の山頂部分だが、エリーティアの力なら飛ばすだけならそれほど難しくなさそうに見えた。
「ここからできる?」
(あ、そういうことか)
見た目では近そうに見えるが、実際はそんなことはないだろう。下手したら数キロ先かもしれない。ノシュールではその場で爆発させたが、遠距離まで魔道力を維持するには別の力が必要だと言う。また違った難しさがあるようだが。
「多分……」
控え目ながらエリーティアはあっさりと頷いた。
「たいしたものねぇ。貴女の母親も凄かったけど、負けないみたいね。でも、使い過ぎには注意した方がいいわよ」
「使いすぎ?」
一体何のことなのかと思わず声に出してしまったところ、エリーティアが回答する。
「一般論として魔力を一気に溜めすぎると制御できずに暴走することがあるんですよ。あとは、大きな魔力を使う人にありがちなのですが、生きているうちに使いきれる量は有限のようでして、次第に使えなくなるみたいですね」
ルビアも相槌を打つ。
「そうなのよ。陛下も昔は好き放題打っていたけど、最近はもう無理みたいね」
「ということは、魔道という点ではエリーティア様の方が有利?」
「ま、戦うことがあればそういうことにはなるわね」
ルビアは余裕めいた笑いを浮かべた。
エリーティアは「そんなことは起きないですよ」と苦笑するが、ルビアも「長く続くことはない」と思っているようだ。
「私も同感よ。エリーティアには申し訳ないけど、オルセナ摂政は相当弱っているみたいで、彼が死ねば陛下もやる気がなくなるわ。そうなれば適当なところで手打ちでしょうね」
ルビアの淡々とした説明に、エリーティアの表情が沈む。
娘たるエリーティアにとって、摂政の死は簡単に認めたい事実ではなさそうだ。
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