第12話 次なる目的地
二時間ほどお菓子を食べながら、話をし、別れることとなった。
「ライナスにも会っていく?」
口に出した名前はホヴァルト宰相ライナス・ニーネリンクのことだ。
この人物がホヴァルトの政治面を主導しており、また、支えている。
もっとも、その知名度と裏腹に本人は大変な状態らしい。
「……これだけ領地が広がったのに、スタッフが格別増えるわけでもないからねぇ。毎日朝から晩まで色々資料を見ているわ」
「激務で倒れたりしないんですか?」
エリーティアが苦笑しながら尋ねると、王妃ルビアも頷いた。
「最近、痩せたように見えるし、色々大変かもね。そうか、オルセナ摂政の死で終わると思っていたけれど、ライナスの死で終わる可能性もあるわね」
冗談なのか、本気なのか分からないような口調だ。
エリーティアは当初、ライナスに会うことにも関心がある風に見えた。
しかし、過労死するかもしれないなんてことを言われると「会いたいです」とは言いづらくなる。
「大丈夫です。また、そのうち来ると思いますので」
「そうね。今度は来る少し前に連絡をちょうだい。そうすれば、ジュニスとティロムをとどめておくわ。あるいはバーリスまで会いに行く?」
「いえ、今年のうちにベルティにも行ってみたいですので」
「ベルティ?」
ルヴィナとアタマナが揃って声をあげる。次の予定地を聞いていなかったので、それを初めて知ったと同時に、それがどこなのか気にもなる。
王妃ルビアは少し馬鹿にしたような顔をする。
「あの国は昔から『アクルクア最強』とも言われているけれど、ずーっと内乱で、終わったと思わせつつもまだ内乱が続いているわ。大丈夫なのかしらね?」
「昔のベルティは分からないんですけれど、今はようやく落ち着いて、ノルンもフリーで動けるようになったと言っていますよ」
「ノルン!?」
ルヴィナは思わず声をあげた。
これにエリーティアと王妃が反応する。
「ノルンを知っているんですか?」
「知っているも何も。彼の指揮する軍と戦った」
「えっ? そうなんですか?」
「三年前。大きな戦いでは私の初陣。彼は連合軍を指揮していた。私がいなければ負けていた」
ルヴィナの言葉に王妃が笑う。
「自分がいなければ味方は負けていた。いい言葉ね。今の言葉を陛下が聞けば面白がったと思うわ」
「……いえ、私ではホヴァルト王の足下にも……」
王妃の話からホヴァルト国王は強敵との戦いを楽しむ性質であるらしいことは分かっている。
簡単に勝てるオルセナよりは、ルヴィナが指揮する強いオルセナの方と戦いたいのかもしれないが、自分の故郷ならともかく、関係のないところでそこまでの責任を負って戦いたくはない。
だからひとまず謙遜しておいた。
それはそれとして、ノルンである。
「私もノルンには興味がある。彼は非常に優れた将軍。オルセナを勝利に導くのは私より彼かもしれない」
「そうなの?」
王妃がエリーティアに尋ねて、エリーティアはまた苦笑する。
「どうでしょうか……。ノルンは頭が良い人だとは思いますが、オルセナの指揮官になってくれるかどうかは分かりません」
「……彼は何をしていますか?」
出身地については確かにベルティという地方だったかもしれない。
ただ、彼がそこでどのような身分であるのか、何をしているのかはルヴィナも知らない。
「南への遠征軍を指揮するという話ですね」
「南……というと、フンデ?」
王妃ルビアはノルンについてあまり知らないらしい。これまでのハキハキした言動がやや鈍っている。
フンデと言われても簡単には分からないので地図を取り出す。
大陸の東にベルティがある。その南……アクルクア大陸の最南端にフンデと呼ばれる地域がある。地図で見る限りは砂漠が多いようで、西側には活火山も多いようだ。
「……?」
ルヴィナは首を傾げた。同時に先程、王妃ルビアがけげんな顔をしていたことにも納得した。
「この地域は広い。だが、占領する価値がある?」
生産性の低そうな砂漠をいくら占領しても、得るものはほとんどない。
そこに人がいるのであれば、開化させる労力も必要となるだろう。
ノルンほどの将軍がすべきこととも思えない。
「ただ、ホヴァルトとオルセナが戦闘中である以上、関与しないのならラルスに攻め込むか、フンデに攻め込むしかないのも事実ね」
王妃が地図で言う通り、西側と北側が軒並みオルセナとホヴァルトの領域となっているから、ベルティが勢力を拡大できる場所がほとんどないのも事実である。
とはいえ、やみくもに広げれば良いとも思えないが。
「私もそこが気になるので、聞きに行きたいなと思うんですよ」
エリーティアが答えた。
「なるほど。そういうことですか」
確かに意図が気になる。
また、それを別としても、ノルンと話をしてみるのも楽しそうだという思いもある。
「私もついていきます」
もちろん、他の地域でもついていくつもりだったが、自分自身も行きたくなった。
だから、エリーティアに即座に申し出た。
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