第6話 ホヴァルト王都への道
セシリームを出発した3人は、3日後には早くも国境を超えていた。
「……」
エリーティアが先導して移動しており、ルヴィナとアタマナはついていくという状況である。
それも半ば絶句しながら。
オルセナとホヴァルトの国境線は長い範囲に広がっているが、もっとも近いのはまっすぐ北上して、高地へと登っていくことである。もちろん、高地に上るので体調に問題が生じうるし、最短距離であるゆえに警戒も強い。
そんな警戒の強いところにやってきたエリーティアは何をしたか。
「オルセナの王女エリーティアです。ホヴァルト王や王妃に会いたいので通行してよろしいでしょうか?」
国境で真正直に申告した。
申告された警備兵達の方が戸惑って、色々上司などに確認している有様だ。
大胆不敵というか、何というか。
「……ミベルサ大陸ではありえない」
ルヴィナも呆れる他ないが、アクルクア大陸最強と呼ばれるホヴァルトは「たかだか少女の入国を拒むのは沽券に関わる」と思ったのだろう。王都に急いで伝令の鳩を飛ばしつつも国境を通過することを認めてくれた。
国境を通過すると、王都までひたすら山を登っていくことになるが。
「これを登るわけですか……」
アタマナが山道を見て、思わず声をあげた。
通行をあっさり認められたのは予想外であったが、最短ルートだけあって道は険しい。
角度にすると20度を超える急坂である。
ルヴィナもここまで険しい道を登ったことはほとんどない。そもそも、彼女の故郷周辺には山自体存在しない。大陸に山がないわけではないが、遥か遠くの話である。
「遠回りして、もう少し緩やかな道を行きましょうか」
エリーティアが2人の様子に気付いて、配慮の言葉を口にした。
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
不安がないと言えばウソではあるが、12歳の王女が登ろうとしているのである。
年長者の自分達が弱音を吐くわけにはいかない。
「大丈夫。行きましょう」
アタマナに続いて、ルヴィナも登山に挑むことになるが。
10分もしないうちに、自分達が間違っていたことにルヴィナもアタマナも気づいた。
エリーティアは登っているが、自身の体力を使っているわけではない。魔力を使って少し浮遊しているような感覚ですいすいと登っている。坂の角度など全く関係ないといった様子だ。
「ひぃ、ひぃ……」
アタマナが先に登り、ルヴィナがそれを見たうえで登る。
明らかに後悔しているが、今更「やっぱりやめましょう」とも言えない。幸いなことに少し登ったところは少し平坦になっており、そこに集落がある。恐らく地元の人間にとっても辛いのだろう。2人は滑らないように気を付けつつ登っていく。
「中々きつい」
「太ももがパンパンですぅ……」
およそ一時間、距離にして2キロほどを歩き、高さにして7、800メートルは登ってきた。
目指す集落はというと、あと1キロほどであるが、何といっても高さが急峻すぎて足がきつい。
「ひとまず中腹の街まで行って、休みましょう」
エリーティアの言う通りにするしかないのだが、そこまでたどりつけるかがおぼつかない。
「ホヴァルトの王都ゾストーフはまだ先なのでしょうか?」
「確か、高さ4000メートルくらいだったと思います」
「4000!?」
2人ともあらかじめ聞かなかったことを後悔した。
というより、エリーティアが魔力で移動するということをすっかり忘れていたことを後悔した。
「確か1000メートルごとに街があるそうです。急ぐわけでもないですし、少しずつ慣れていきましょう」
「……よくご存じですね。地図などがあるのでしょうか?」
アタマナの問いかけに、エリーティアは「地図はどうでしょう」と首を傾げた。
「ルビア王妃やティロム君から、ゾストーフへの道は大体聞いていますので」
「……はい?」
アタマナが素っ頓狂な声をあげた。ルヴィナも目を丸くする。
エリーティアは「あれ?」という顔をした。
「そういえば、言っていませんでしたっけ。ホヴァルト王妃や王子とは手紙のやりとりをしていますので、どうやって行けば良いか教えてもらっていたんです」
「……初耳」
「エリーティア様がエリーティア様なら、ホヴァルト側もホヴァルト側ですね……」
戦争中の王族同士、国王の妹と、王妃と王子が手紙でやりとりするのも理解に苦しむが、王都の行き方を教えるのはもっと理解に苦しむ。
「でも、大変だから他の道の方が良いと言っていたので、その方が良かったですよね……」
へろへろになっているルヴィナとアタマナに申し訳ないという視線を送ってくる。
「……ここまで来た。毒を食らわば皿まで。最後まで行く」
中腹まで大分近づいて、ルヴィナとアタマナは揃って大きく深呼吸をした。
残り一息、足に鞭を入れて登っていく。
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