第23話 才能の正体
「何でしょうか?」
「エリーティア様、人に手柄を立てさせてはいけない」
ルヴィナの言葉に、エリーティアは悪戯がばれた子供のように照れ笑いを浮かべた。
「分かっていました?」
「ゼシェル大公子の発言は適当。エリーティア様がフォローしていた」
実際に茂みや森に盗賊が潜んでいることに気付いていたのはエリーティアだった。ただ、彼女はそれを自分から口に出さず、何らかの方法、恐らく魔力の光などを見せてゼシェルに気付かせていた。
ルヴィナはそのことに気付き、指摘をしたのだ。
「……すみません」
「優しさの表れ、それは理解しています。ただ、無い能力があると思うと。命を落とすかもしれない。彼のことを思うなら、余計なことはしないべき」
「……すみません」
エリーティアが頭を下げる。
分かれば良い。
ルヴィナはそう思ったが、一方で気になることもある。
「エリーティア様は、どうやって見分けた?」
ゼシェルが気づかせるように仕向けていたということは、それ以前の段階で盗賊達が該当の場所にいるということを理解していたことになる。
となると、かなりの距離があるにも関わらず、彼女はそこに敵がいることに気付いていたことになる。
一度だけなら偶然かもしれないが、二度三度だ。しかもそれをゼシェルの手柄にしようとしているくらいだから、確信に近いものがあったはずだ。
恐るべき索敵能力である。
「えっと、つまり、魔力を細かい粒子にして半径二キロくらいにばらまいていました」
「……そして?」
「粒子に触れる者があれば、それが伝わります。盗賊の人達は服なり皮の鎧のようなものを着ていますから、動物などが触れた時とは違う感覚がありますので」
「だから分かった?」
「はい」
「……それだけの大魔法。負担はないのですか?」
二キロ周囲に魔力をめぐらせているとなると、相当な話である。
しかも、それをほぼいつも行っていたらしい。魔力が尽きることはないのだろうか。
「そうですね……。二か月三か月と続けていたらそうなるかもしれませんけれど、ものすごく細かい粒子にしていますから、それほどの負担にはならないんですよ」
「便利……」
「そうですね。便利です」
エリーティアは他人事のように笑った。
隊に戻るまでの間に、今度はエリーティアがルヴィナに尋ねる。
「ゼシェル君はどうでしょうか?」
「あの大公子は評価しづらい……」
そもそもまだ子供という部分もある。
一つ年上のエリーティアが1人で色々やっていることからすると物足りないが、これはエリーティアが例外的に凄いと見るべきで、彼女と比較してゼシェルがダメというのは酷である。
「能力的には何も見るべきところがない。ただ、精神的には評価しうる」
重い鎧をつけて移動しているが、「暑い」だの「重い」という不満以上のことは口にしない。
「彼は大公の息子。無理矢理脱ぐこともできる。しかし、それはしなかった。彼自身、鎧が必要と考えているから。これは私の国にいたボンクラ貴族とは違う」
「ルヴィナ様の国にいた人は、鎧も着なかったのですか? って、私が言うことではないかもしれませんけれど……」
「着なかった。鎧は周囲の者の命」
危険が迫った場合は上から命令して、周りの人間を盾として逃げ延びればいい。
そういう面々が決して少なくない。
ゼシェルは文句を言っても、「僕は大公子だからお前達が僕を守れ」ということは言わなかった。それは当然、彼自身が自分の潜在能力を信じているからなのだろうが……
「戦場では使えない。しかし、覚悟はしていた。覚悟して臨んでいた。将来は楽しみ、かもしれない」
かなり甘い評価であると、ルヴィナ自身は思っていた。
ゼシェルは今でこそ自分を信じている。しかし、信じるほどの能力があるのかというと微妙だ。そのうち才能がないことに気付いて、周りの者を危険に晒すことと引き換えに自分の手柄を立てる方法を覚えるかもしれない。
「……だからこそ、変な才能があると誤解させてはいけない」
「申し訳ありません。ゼシェル君が頑張っていたので、ちょっとくらい報われてほしいな、と思ってしまって」
「ダメとは言わない。王女がずっと彼の面倒を見るなら。そうでないなら、無責任」
「……はい、以後はやめます」
部隊と合流したところで、ゼシェルが口を開いた。
「これからハルメリカに戻るのなら、鎧を脱いでもいいだろうか?」
「ダメ。大公子はこの部隊の象徴。凱旋は立派である必要がある。馬子にも衣裳。帰るまでが遠足」
「最後は違うのではないですか?」
アタマナのツッコミを無視して、ルヴィナは再度言う。
「大公子が戦うのなら、慣れる必要がある。重さに、感覚に。さぼってはいけない」
「……分かった」
ゼシェルは重い溜息をついた。
それを見て、エリーティアがクスッと笑った。
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